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別れを覚悟していなかった、わけではないのだ。
しかしこれは。こんなに早く、こんな形であるなんてまったく想像していなかったというだけで。
「でも、まだナナちゃんはまだ小学生だよ。まだぼくと一緒にお布団で寝てくれるんだよ。ぼく、だいぶ汚くなっちゃったけど、それでもまだ時々お洗濯して貰えるし、まだ五体満足で動くし、目玉は取れたらつけ直せばいいだけのことで……だから」
しょんぼりと、茶色のクマミミを垂れさせてぼくは言った。
「だから……ぼく、まだお別れしたくない。もう少し、もう少しだけ……ナナちゃんと一緒にいたいよう……」
ワガママと言われるかもしれない。でも、まだぼくのことを忘れてもいないのに、古くなったというだけで捨てられてしまうなんてそんなのはあんまりだ。新しい奴が来て、ちやほやされているのを想像するだけで目の前がいろんな感情で真っ暗になってしまうというのに。
「もう、お前は考えすぎだろ」
レッドマンはぼくの肩をぽんぽんと叩きながら言った。
「よし、じゃあまずこうしよう。お前はナナちゃんがいない隙に、ナナちゃんの靴下を確認しに行け」
「くつした?」
「我が家では、サンタさんへのお願いは大きな赤いくつしたに欲しいもののメモを書いて入れる習わしになってただろ。ナナちゃんは、夏休みの宿題もすぐに終わらせるし、学校の課題だってその日のうちにちゃんとやるようなマメな子だ。クリスマスのお願いメモも、きっとクリスマスよりずっと前に入れておくだろうさ。それを見て、ナナちゃんが本当にクマのぬいぐるみを欲しがっているかどうか、どういうつもりなのかどうかを確認するといい」
何かを判断するのは、それを見てからでも遅くないだろ、と彼は告げる。
「……うん、わかった」
間違ってはいない。ぼくは目元をごしごしと拭って返したのだった。
我が家では、十二月になるとすぐ家の中にクリスマスの飾りつけを始める。クリスマスツリーと一緒に、“サンタさんのメッセージ用”くつしたもツリーの横に出されるはずだ。
ナナちゃんはいつも、欲しいものだけじゃなくて丁寧にサンタさんへお手紙を書く。なるほど、そのメッセージを確認してから対応を考えてもいいだろう。
――まあ最悪、その手紙をぼくの書いた手紙とすり替えてもいいんだしな!ぼくのライバルになりそうにないプレゼントにしてもいいだろ、ゲーム機とか本とか!……あ、ゲーム機って書いたらナナちゃんのパパとママが泣くか。スイッチ高いし。
まあ。
ご本人は、愛するクマのぬいぐるみが、こんな腹黒いことを考えてるなんて思ってもみないだろうが。
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