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ラジオから、テレビから。ジングルベル、の音が聞こえる事が増えてきた。キラキラしたカラフルボールと、サンタの小さなぬいぐるみをくっつけたツリーが玄関脇に置かれ、その横の壁には大きな赤い靴下が吊り下げられる。家の中がどんどん華やかになってきた。どうやら今年は、お父さんが新しいクリスマスの飾りをたくさん買い込んできたらしい。テーブルの上に、クリスマスのスノードーム。マリア様の小さな像や、サンタのマスコットのような飾りがぺたぺたと壁に貼りつけられることになった。
「今年のクリスマスも楽しみ!」
「ナナ、もうサンタさんへのお願いは決めたのか?あんまり高いものをお願いすると、サンタさんが困っちゃうぞ?」
「んー」
ソファーでナナちゃんが、ぼくを抱っこしてはしゃぐ。隣に座るお父さんは牽制を忘れない。いやほんと、クリスマスと誕生日だけは可愛い娘の欲しいものを買ってやりたい気持ちと、マジで高くて買えないものを希望されては困るという気持ちと、その上でサンタの正体が自分達だとまだ明かしたくない気持ちで揺れているのだろう。
ナナちゃんはそんな親心をわかっているのかいないのか、首を傾げていたずらっ子っぽく笑った。
「ふふふ、ないしょー」
頼む早く教えてくれ!ぼくは叫びたい気持ちでいっぱいだった。なんせ靴下が飾られてから毎晩こっそりあれを覗きに行っては、まだ手紙がないとがっかりして定位置に戻るのを繰り返しているのだ。この間は見に行ったのが、夜中にトイレに起きてきたお母さんにバレそうになり、誤魔化すだけで大変だったのである(何で玄関にぬいぐるみが落ちてるの?と不思議に思われただけで済んだようだが)。
――代わりの手紙はもう用意したんだ、ナナちゃんはよ、はよ!場合によってはもう一度手紙を書き替えなくちゃいけないんだからはよー!
自分勝手と言いたければ言え。
ぼくのぬいぐるみ人生がかかっているのだ。多少意地汚くなるのも当然なのである!
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