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そして、そんな風にもだもだしまくってから約一週間後。ぼくはようやく、靴下の中にナナちゃんの手紙が入っているのを発見したのである。
「よ、よし!あった!」
こっそり玄関の電気をつける。クマのジャンプ力あなどるなかれ、ジャンプしてスイッチを入れるくらいはお手の物なのだ。
急がなければいけない。いつものパターンだと、この手紙が入れられてから数日以内にお父さんかお母さんが手紙を回収し、持っていくはずである。二人に手紙が渡ってしまったら終わり、それまでにすり替えをするかどうか決めなければいけないのだから。
ぼくは祈るような気持ちで、ナナちゃんの手紙を開いたのだった。そこには、こんな風に書かれていた。
『サンタさんへ。
いつもプレゼント、ありがとうございます。わたしは、ことしはクマのぬいぐるみがほしいです。
男の子のぬいくるみわもういるので、女の子のぬいぐるみがいいです。男の子のぬいぐるみの、くまのルーさんが、ひとりぼっちでさみしいとおもうので、おとものだちになってくれる女の子がほしいのです。
よろしくおねがいします。
いいじま なな』
ぼくはしばらくまじまじと手紙を見つめたあと――やがて、黙って手紙を靴下の中に戻した。勿論、ナナちゃんが書いた手紙の方を、だ。
「……バカだなあ。ぼく、寂しくなんかないのに」
捨てられるかもしれない、なんて。どうしてぼくは疑ってしまったのだろう。ナナちゃんは最初から、ぼくのためを思ってプレゼントを考えてくれていたのに。
よくよく考えたら、誕生日にはぼくのお洋服をお父さんとお母さんにお願いしてくれていたナナちゃんだ。少しでも捨てようという気持ちがあるなら、そんなお願いなんかしないだろう。
「ぼくは、ナナちゃんといられたら、寂しくなんかないよ?お友達なら、クマのぬいぐるみ以外にもたくさんいるし」
薄汚い気持ちでいっぱいのぼくの手紙は、見つからないようにキッチンの生ごみのゴミ箱に捨てた。
永遠なものなんか、ない。ナナちゃんはいつか大人になって、ぼくはどんどん古くなって、お別れの日は毎秒一歩ずつ近づいているのは間違いないことだ。
でも今だけは。もう少しだけは。
「ナナちゃんが望むなら……ぼく、新しい子とも、頑張って仲良くするからね」
大きくなって、優しく強くなる君を。
一番近くで見ていたいと、切にそう願うのだ。
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