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「顔はやめとけ、ブサイクになったら貰い手がなくなるだろ。昨日みたいにお腹蹴るくらいにしとけ」  茶髪の首の側面に小さなほくろと大きなほくろが並んでいるのが見えた。覚えておこう。  はーいと言い茶髪がいったん外に出てから戻ってくると、手に口輪を持ってクレートを開けた。  飛びかかろうとしてみたが慣れた手つきで素早く口輪をされ武器がなくなった。 「おー怖い怖い」  茶髪は楽しむようにそう言いにやりとする。  すぐ蹴られるかと思ったが、茶髪は距離を取り様子を見ている。間合いを取り窓の外が見える位置に少しずつ移動。 「なんだやらないのか?」  金髪が茶髪に聞くと 「あいつが近づいてきたら蹴っ飛ばす。正当防衛ってことでね」  僕は近寄らず間合いを取り、窓の外が見える位置に少しずつ移動する。  窓は男たちの腰ぐらいのところから顔下くらいまでの大きさで外が見えても一部だけだ。  枝以外に見えたのは青いトタンの壁の小屋みたいなのと赤い枯れた花だった。  窓の外を見ていると金髪に首をつかまれクレートの中に放り込まれる。  入れ替わったまま二日経過した。  ーーまさかこのまま元に戻れないなんてことはないだろうな。  母に入れ替わっているときの様子をさりげなく聞いてみたときは、返す言葉が「うん」ばかりで単調だと言う。  それから両手を地面につけて床の匂いを嗅いでは眉間にしわをよせていると言っていた。  三日近くそんな状態が続いたら不審がられるだろう。そんな不安もあり眠れずにいた。  男たちは昨日もきて、交配がどうとかネットの真似して写真を逆に張っていくなど話している。  ご飯は一日二回紙コップに半分も入っていない量だ。お腹が空いてしまう。  早くなんとかしたい、そうは思うものの、狭いクレートからは出してもらえないため、どうすることもできない。  三日目の昼くらい、外から嗅いだことのある匂いがしてきた。  ーーこの匂いは……。  杜若 椿だ……。それと僕……?  匂いがだんだん近づいてきて僕は大きな声を上げた。  何を言っているかはわからないが杜若の声が聞こえた。もっと大きな声を出す。  ドアを開けて入ってきたのは匂い通り杜若と少し間抜け面の僕だ。  杜若は部屋を見渡す。先に僕、ポルシェと目が合った。そして杜若と目が合う。 「ポルシェ……! 」  杜若は上下の出っ張りを同時に押し込み扉を開く。  杜若は顔をほころばせこちらを見つめた。僕は空腹と不安から解放されたと思うと嬉しくなり口元が緩んだ。
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