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 そう考えていると一瞬にしてあたりが真っ暗になり何も見えなくなった。  停電にしては真っ暗すぎる。それにこのテレビの砂嵐のような音……。 「よっ!残念だけど今の犬のお前は夢じゃなくて、現実だ」  暗闇から砂嵐模様の人型の物体が現れそう言う。  黙って物体を見ていると物体は言葉を続ける。 「いやー、ただお前の願いを叶えるだけじゃつまねぇなと思って思いついたんだよ。日の入りから日の出までお前と犬の魂が入れ替わる呪いかけてやろうってな」  呪い?今、呪いって言ったよなこの物体……。  と言うか入れ替えるということは、今僕の体には犬のポルシェの魂が入っているってこと……。  そう考えた瞬間全身に鳥肌が立った。  願いなんか取り下げていいから呪いを解いてくれと言うと、物体は三つの点を真っ赤にし言う。 「取り下げはできない。お前は願った」  強い口調でそう言うと真っ赤な点は元の黒い点に戻る。 「だが呪いを解く方法があるにはある」  物体に問うと「物体って、オレはオリシンスだ」と言った後一言、「涙」と言った。  涙?と僕は反復する。 「そう、涙。つっても悲しいときに曲がす涙じゃだめだ。嬉し涙とかだ。それに触る。お前の家族かあの女の家族の誰かの涙にな」  悲しいときに流す涙ならすぐどうにかなりそうだが、嬉し涙となると難しそうだ。 「ま、せいぜい頑張れよ~」  物体……、オリシンスはそう言い残し暗闇の中に溶けるように消えていった。  パッとあたりが元の明るさに戻ると、美味しそうな肉の匂いが鼻腔をついた。  そういえば、オリシンスは高級和牛肉を食べて満足じていた。ならば同じものをあげれば涙とかなんとかしてくれないか……。 「今日ステーキ⁉ やった!」  階段を降りダイニングに入りそう言ったのは同じクラスの杜若 椿だった。  そうか、あの中年女性は杜若の母で、ここは杜若の家なのか。  杜若 椿と知り合ったのは一年生の文化祭の時だ。  その時はクラスは違ったが、同じ文化祭実行委員会で、同じ広報班にだった。  華奢な体にすっきりとした顔立ち、くりっとした目に長いまつ毛。ボブカットがよく似合う。  一目見て彼女を可愛いと思った。仲良くなりたいなと思いつつも、緊張のせいかろくに話しかけられないでいた。  机を四つ向かい合うようにくっつけ、近隣に配るチラシを作っているとき唐突に彼女に話しかけられた。 「一軸君はどうして実行委員になったの?」  唾を飲み込み噛まないようにくじ引きでねと言い、同じことを杜若に聞く。 「あたしはただ文化祭に参加するだけじゃなくて、なにかできたらなって思って」
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