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4
ポルシェと魂が入れ替わるようになって、春から冬へとなっていた。
オリシンスが現れ「このまま戻れない状態が続くといつしか犬になってるかもよ」とケラケラと笑い言ってきた。
それはさすがに困る。最初から犬として生まれてきたならいいが、人間としての意思がある以上、つらいものを感じる。
願った頭がよくなるようにというのは叶った。あっさりしすぎていて忘れかけていたが、たいしてまともに勉強していなかったにも関わらず、期末テストで一位を取ったときふと思い出した。
そんな程度の願いにしては痛すぎる代償に感じた。
最近だが、教室で杜若がよくポルシェの話をしているのが聞こえてくる。
「なんかうちの犬、朝と夜で別人……別犬みたいに感じるときがあるんだよね」
朝や昼間は杜若に対してクールな感じだが、夜になると笑顔が増えていると話していた。
犬の話で杜若の笑顔を見る機会が増えていたある日。
杜若が学校を二日連続で休んだ。それと重なるかのように僕とポルシェの入れ替わりがなくなった。
もしかして呪いとやらが解けたのだろうか。でも涙には触っていない。
なぜなのか分からないまま入れ替わりがなくなってから三日目の朝。
寝たはずなのに朝から強烈な睡魔に襲われた。立っているのがつらいのでベッドに横になる。
目を開くと知らない部屋にいた。犬が入ったクレートがたくさん並び、犬たちは窮屈そうにしている。
蛍光灯の灯りが心もとない光を出していた。
腹部に痛みを感じる。
ーーどこだここは……。
鼻から入ってくる匂いも悪い匂いばかりだ。元気のない匂い、病気の匂い。匂い以外からも不安や警戒を表している犬がいることがわかった。
左側のほうに窓がある。今の状態だと見えるのは木の枝だけだ。
自分が、ポルシェがよくないところにいるのはなんとなくわかるが、どこにいるのかはわからない。
窓から外が見れればいいが、クレートが狭く身動きが取れない。
騒げば誰かくるだろうか。僕は他の犬のように声を上げた。
カタカタと外から足音が二つ聞こえてきた。部屋に一つだけあるドアから入ってきたのは二十代くらいの男二人だ。
一人は金髪に金のピアス、背中に龍の柄が入った黒いジャケット。もう一人は茶髪に銀のピアス、背中に虎の柄が入った赤いジャンパーの男だ。
知らない人にこんなことを言うのも悪いが、絵に描いたような悪そうな二人組だ。
「昨日のこいつどうする?」
茶髪が僕のほうを横目で見ながら言う。
「こいつは雑種だし、交配には使えねーからな。適当に貰い探して……」
二人が悪質なことを考えているのは分かった。だが今はどうすることもできない。
うなるように声を上げると茶髪のほうがポルシェに顔を近づけてきた。
「なんだお前、また殴られたいのか?こいつボコボコににしていいっすか?」
茶髪は後ろを向き金髪に聞く。
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