第26話 一人の容疑者

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 エヴェラルド様の生家であるパルミエリ伯爵家は代々騎士も務めており、強さが尊重される家。ただし、エヴェラルド様自身は幼少期に病弱だったこともあり、騎士をやっていない。関係者というのは、その部分で合致している。 (……けれど、エヴェラルド様は)  気が弱くて、人を呪えるような度胸のない人。彼が幼少期からエリカに恋慕を抱いていたことは、知っている。だけど、彼の性格上そこまでするとは思えない。 (……ううん、恋は人を愚かにするのよね)  だから、そうなってもおかしくはない。そう思い、私は「ギルバート様」とゆっくりと声を発する。 「……どうした、シェリル」 「いえ、私、その情報から一つの心当たりが、あるのです」  ゆっくりとそう告げれば、ギルバート様は「……俺も、一人きな臭い人物が浮かんでいる」とおっしゃる。 「まぁ、とりあえず情報共有をしよう。詳しいことは、そのあとでいい」  ギルバート様は一度目を瞑って深いため息をされながら、そう告げられた。なので、私はうなずく。  多分だけれど、ギルバート様もエリカに対してそこまでの感情は抱いていないのだろう。確かに、複雑な感情を持っていらっしゃるかもしれない。でも、少しは、エリカのことをわかってくれたのかな、なんて。 (私が、あの子のことを助けてあげたいの)  素直になれなくて、ちょっぴりあまのじゃくで。可愛らしいのに、気が強いフリをし続けるあの子のことを……私は、守りたい。  そう思うとほぼ同時に、開いた窓から風が吹き抜ける。その風は、私の長い髪を揺らしていた。  そして……私の身体が、ふらついた。
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