第28話 シェリルとギルバートの視察(1)

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「私も、見てもよろしいですか?」  何か役に立てるのならば。そう思ってそう問いかければ、ギルバート様は「見ても、面白いものじゃないけれどな」とおっしゃって、私に読み終わった要望書のいくつかを手渡してくださる。  その要望書に目を通していけば、書いてあるのは様々なこと。建物や交通機関の修繕の依頼や、税についてのお話。さらには、農業についての相談など。いろいろと書いてあるけれど、私にはどうすることもできないことばかり。……こういうのは、当主様のお仕事だもの。 「……私、何もできませんね」  思わず要望書に目を通しながらそう零せば、ギルバート様は「……いろいろと、頑張ってくれているだろ」と言葉をくださった。 「俺は社交が苦手だから、結婚したら社交はシェリルに任せっぱなしになると思う。それに、使用人を束ねるのも任せてしまうだろうな」  確かに、使用人を束ねるのは夫人の仕事だった。お義母様もよく使用人を束ねていたもの。とはいっても、大したことはされていなかったと思う。そもそもお義母様、あんまり使用人たちに好かれていなかったし。 「だから、シェリルが気に病む必要はない。適材適所っていうやつだ」 「……はい」  ギルバート様は、私のことをとてもよく分かってくださっている。だから、なんだかんだと言っても任せてくださるのだろう。私が何もしないことを苦手としていることも、このお方にはお見通しなのだ。  そんな風にギルバート様と会話をしていれば、馬車がガタガタと大きな音を立てて揺れ出す。どうやら、あまり整備の行き届いていない道を通り始めたらしい。田舎の方に向かうので、ある意味当たり前なこと。でも、ギルバート様は「……ここら辺も、整備しなくちゃな」とボソッとこぼされていた。
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