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「私の好きな人を、貶さないでください。……たとえ、ご自身だったとしても」
「……悪かった」
ギルバート様が、何処となくしょんぼりとした様子で謝罪をしてくださる。でも、わかってほしかった。……ギルバート様は、ご自分が思うよりもずっと素敵な人だと。わかって、くださらないかもしれないけれど。
(だけど、何度も何度もお伝えすればわかってくださるわ)
私がそう考えていると、不意に石でも踏んだのか馬車が跳ねる。その際に私の身体がふらつけば、ギルバート様が私の身体を抱き留めてくださった。
「……大丈夫か?」
顔を覗き込まれ、優しくそう問いかけられる。……心臓が、大きな音を鳴らしている。こんな至近距離に、大好きなお顔があって。……ときめかない方が、無理だった。
「だ、大丈夫、です……」
そっと視線を逸らしてそう言えば、ギルバート様は「悪い」とおっしゃって私の身体を放される。もう少し、くっついていたかったけれど、そんな高望みは出来ないわ。
(いつの間に、私はこんなにも乙女チックな考えになったのかしら……)
そう思ってしまうけれど、間違いなくギルバート様に恋をしたからだ。
そんなことを考えていると、馬車の外の景色が徐々に変わっていく。多分、もうじきノールズにたどり着くのだろう。
(次期夫人として、頑張らなくちゃ)
自分にそう言い聞かせて、私はぐっと手のひらを握った。
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