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ノールズはギルバート様のおっしゃった通りというべきか、とても景色のいい場所だった。山々に囲まれた田舎ではあるものの、農業が盛んであり裕福な場所ではあるそうだ。
以前訪れた街は観光業が盛んな場所だったので、その違いに目を見開く。でも、いい場所であることには間違いはなかった。
「領主様。よくぞいらしてくださいました」
私たちを出迎えてくれたのは、町長と思しき壮年の男性。彼は私のことを見つめると、「おぉ、噂の婚約者様ですね」と言ってニコニコと言った表情を浮かべる。
「初めまして、シェリルと申します」
静かに一礼をして、軽く頭を下げる。すると、男性は「まるでお姫様のような方ですね」と褒め言葉をくれた。そのため、私は首を軽くかしげながらふんわりと見える笑みを浮かべる。
「……町長。いろいろと要望書には目を通したのだが、直に見たい。畑の状況と修繕が必要な橋の状況を見せてくれ」
しかし、男性はギルバート様のその声を聞くと、一気に真剣な面持ちになり「はい」と返事をする。
だからこそ、私もギルバート様について行こうとしたのだけれど、ほかでもないギルバート様に止めておけと言われてしまう。
「シェリルは病み上がりだからな。……ここにいてくれ」
「……ですが」
「ノールズは町を出ると足場の悪い場所もあるんだ」
確かに、病み上がりの私は足枷になってしまうだろう。それを理解し、私が「承知いたしました」と素直に引き下がれば、ギルバート様は「その代わり、町の方を頼む」とおっしゃってくれる。
「生憎、あちらに向かってしまうと町の視察がおろそかになってしまう。だから、シェリルにはそっちを任せたい」
……どうやら、ギルバート様は私にもやることをくださるらしい。それを理解して、私は「はい」と真剣な表情を浮かべて頷いた。
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