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そんな私を見ると、ギルバート様は町長と共に馬を走らせて町を出て行ってしまわれた。
残されたのは、私と馬車の御者の二人。
(けれど、視察と言ってもどうすればいいのかしら?)
そう思って頭上に疑問符を浮かべていれば、不意に「あの」と声をかけられる。そちらに視線を向ければ、そこには中年の女性が建っていた。
「領主様の婚約者の方、ですよね……?」
彼女は恐る恐るといった風に私に声をかけてくれた。なので、私は「はい、シェリルと申します」と言って出来る限りにっこりと笑う。ここではそうでもないけれど、領民とは領主を恐れる部分がある。だから、出来る限りふんわりと笑った。
「あぁ、よかった。私はターラと申します。町長の妻です」
女性――ターラさんはそう自己紹介をしてくれた。そしてよくよく見れば、その足元には十歳前後の小さな女の子が二人いる。
「こちらは娘のソフィとティナです。あなたたち、ご挨拶なさい」
「ソフィです」
「ティナです」
女の子たちは少しぎこちない礼をしながら、私に向き直ってくれる。そのため、私は「シェリルです」ともう一度自己紹介をする。
「実は、主人に町の方を案内するようにと言われておりまして。私でよければ、町の方を案内させていただこうかと……」
ターラさんはそんな提案をしてくれる。その提案は素直にありがたいもの。でも、私が一人で勝手に決めていいのだろうか? そんな疑問を抱き御者に視線を送れば、彼は「シェリル様の、お心のままに」と言ってにっこりと笑ってくれた。
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