4546人が本棚に入れています
本棚に追加
/219ページ
お店の中に入れば、ちりんとベルが鳴る。その音を聞いてお店の奥から「いらっしゃいませ~」と若い女の子が顔をのぞかせた。推定年齢は十五歳前後というところだろうか。
「あぁ、ごめんね。このお方、シェリル様っておっしゃるの。……領主様の婚約者」
「……シェリルと申します」
ターラさんの紹介に合わせて自己紹介をすれば、女の子は「えぇ!」と驚いたように声を上げる。その後、ぺこりと頭を下げてくれた。
「えぇっと、お初にお目にかかります。こちらの店主の娘です」
どうやら彼女は緊張しているらしく、何処となくぎこちない笑みを浮かべていた。そのため、私は「おすすめって、何かありますか?」と緊張をほぐすように問いかけてみる。
「……こんな辺鄙な場所のパンなんて」
彼女がボソッとそう呟いたのが、私の耳に届いた。……確かにノールズは辺境の中でも田舎の方だし、辺鄙な場所だと思っても仕方がないかもしれない。でも、そういう場所にはそういう場所の良さがある。私は少なくともそう思っている。
「私、パンが好きなのです。なので、ぜひともおすすめを教えていただきたいです」
出来る限り柔和に見える笑みを浮かべてそう言えば、女の子は「……では、こちらにどうぞ」と言ってパンの前に案内してくれる。
「こちらはカスタードクリームを使いました、クリームパンというものです。今、王都で流行っているもので……」
しかし、彼女はパンのことになると饒舌に話してくれた。その言葉の節々からこのお店のパンに誇りを持っているということが伝わってくる。あと、彼女はパンが大好きなのだろう。それも、容易に想像がついた。
最初のコメントを投稿しよう!