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黒棺峠
「おいッ、スピードを出しすぎだって!」
「オマエらとは腕が違うんだよ!」
河野喜彦はロードバイクのギアを限界まで上げ、黒棺峠の坂を一気に下ろうとした。もともと林道だったこの峠は道幅が狭く、クルマはほとんど通らない。そのため坂好きの自転車愛好家が集まるスポットとなっている。
「サイコー!」
耳に入ってくるのは風の音だけ、喜彦は自分が風と一体になっているのを感じた。黒棺峠はつづら折りになってるため急カーブがいくつもある。喜彦はほとんどスピードをゆるめずに、見事なテクニックで下っていく。風だけではない、喜彦はロードバイクとも一体になっていた。
風とロードバイクと一体になった自分は最強の存在だ、そう感じたのはわずかな時間でしかない。七つ目のカーブを曲がろうとしたとき、眼の前に突然、ロードバイクに乗った老人が現われた。
いや、突然現われたのは老人ではない、喜彦のほうだ。黒棺峠は自転車で訪れる人が多い。たまたま今まで誰にも会わなかったからといって、まったく人がいないわけではないのだ。にも関わらず、喜彦はスピードに酔いしれ、カーブミラーの確認を怠っていた。
老人を避けようとしたが間に合わず、激しく激突して喜彦は崖から落ちた。
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