一章

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*** ───あれから何年たっただろう。 高校生の僕は、ピアノをやっていない。 姉と同じく、やめたのだ。 …いや、の方が正しいかもしれない。 記憶にあるのは、「どうして…!?」と泣き叫ぶ母の姿。 子供がピアノをやめる選択肢などなかったのだろうな、と苦笑したのを覚えている。 お姉ちゃんに伝えたときは、「あら、そうなのー」とあっけらかんと笑っていた。 両手に小さな子供を抱えている。 お姉ちゃんの子供、『ゆいら』と『ふわり』だ。 名前はお姉ちゃんの夫が決めたらしい。 初めて聞いたときは、すごい名前だなと思ったが、呼んでいるうちに定着し、今やこれ以上に似合う名前はあるのだろうか、と思っている。
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