一章

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部活の午前練習が終わり、午後練習開始までの休憩時間。 僕は小学校からの親友である大和(やまと)と弁当を食べていた。 いつものように他愛のない会話をしていると。 「優樹(ゆうき)君、いるっ?」 教室に、透き通った声が響いた。 その瞬間、教室にいた人たちが一気に動きを止め、しばらく沈黙が続いたあと、ざわざわと騒ぎ始めた。 「え、あれ、華山(はなやま)さんじゃね?」 隣にいる大和が、飛び出そうなくらいに目を見開いている。 僕の名前を呼んだのは、ついこの間知り合った華山雨月(はなやまうづき)だった。 雨月は教室に僕を見つけると、にっこり笑って躊躇なく近づいてきた。 「優樹君。お弁当、一緒に食べよ。」 「え、っ。」 周りからの視線が痛い。 「ちょ、大和、ごめん。」 その中にいたくなくて、僕は仕方がなく彼女に誘われるがままついていった。 *** 「ここ、私のお気に入りの場所。」 雨月につれていかれたのは、中庭のベンチ。 二人で並んで、座る。 「って、何で僕なの?」 おかしい。僕じゃなくたって、一緒に食べる人なんて沢山いると思うのに。 それに、僕なんかと弁当を食べて、何が楽しいのだろう。 単純に状況が理解できていない僕に、雨月は逆にキョトンとして言った。 「私があなたと食べたかったから。それじゃだめ?」 無意識にさらっとこういうことを言うものだろうか。 半強制的につれてこられたようなものなのに、なぜだか不快感を感じない。 中庭の木の葉が風に揺れた。 雨月がコホン、と咳払いをする。 「ところで、優樹君。あなた、音楽に興味ある?」 急な質問。 どう、答えるべきか。 「音楽ってどういう?」 とりあえず、彼女の言う『音楽』が(なん)なのか知りたくて、僕は問いかけた。 「えーっと…」 雨月は斜め上を見て呟くと、意を決したように僕の顔を見た。 視線がぶつかり合う。 「単刀直入に言うとね。」 彼女の、(つや)のある黒髪がなびく。 「一緒に音楽つくろうよ、私と。」 彼女の瞳には、口を開けたまま呆然とする僕が映っていた。
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