一章

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*** 「──ピアノ、やめたい。」 部屋に響く、姉の声。 ピアノを弾くのが大好きだった、姉の。 「何を言ってるの?」 両親は言葉の意味が分からないと言ったように首をかしげた。 「私、友達と遊びたいし、好きなことだってしたい。だからもう、ピアノはやめる。」 姉の目には固い決意が浮かんでいる──ように見えた。 幼き僕は姉の考えをすべて理解できたわけではない。 むしろ、どうして、という気持ちの方が大きかったかもしれない。 ピアノをやめる選択肢など、僕には全く無かったのだから。
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