一章

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「おねーちゃんは、ピアノ、好きじゃないの?」 あのときの僕は、純粋に、ただ。 考えられない姉の言葉の理由が知りたかった。 姉は僕の顔をみて、なんとも言えない笑みを浮かべた。 「ゆう。ゆうはピアノ、好き?」 「僕は好きだよ!ピアノ!」  「そっか。…頑張ってね。」 静かに笑う姉の苦労を知ったのは、それから少したってからだ。 姉がピアノをやめてから。 親の期待は、一気に僕に向いた。 そして、姉には心底残念だ、という目を向けるようになった。 あれだけ真面目で、何事にも一生懸命だった姉は、『ピアノ』という縛りから解放され、毎日遊びくれるようになった。
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