一章

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奈海(なみ)!」 母の声とともに、部屋から何かが割れる音がきこえてくる。 「どうして!?もうほっといてよ!!」 ──ヒステリックな姉の声も。 駆けつけてみるとそこには、顔を歪め、母を睨み付ける姉がいた。 ピアスが開いているのはもちろん、髪の色は派手な赤。 真面目で優等生で、何事にも一生懸命だった姉は、もういない。 「私がどこで何をしようが、母さんには関係ないでしょ!?」 …知らなかった。 姉が、こんなに追い込まれていたことを。 性格が豹変するほどに、ピアノという重圧に押し潰されていたことを。 「私は好きなことをやって生きていく!母さんの言いなりになってピアノをやってたいい子ちゃんの私はもういないの!」 叫びながら口端をあげて、ははっ、と笑う姉の姿。 僕は初めて、姉を。 ──怖い、と思った。
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