暖簾に腕押し、懲りずにアタック。

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 見渡す限り、人がいない。  エントランス近くではちらほらとあった人影も、広い動物園の敷地に散ってしまうとなかなか遭遇しないもんだ。 「おいおい、やっぱり人いねーじゃねーの」  前を行く鳥坂(とりさか)さんは、寒そうに肩を竦めながらポケットに手を入れてる。 「空いてていいじゃないですか」 「限度があるだろ」 「限りなく空いてる方がいいですよ」  俺はちょっと大股で鳥坂さんの隣に並び、腕の隙間にぐいっと自分の腕を押し込んで無理やり腕を組む。 「こーゆーことしてても、誰も見ないですよ?」 「すんな」  鳥坂さんはひゅっと腕を抜いて、元通りに手をポケットに収めた。 「いいじゃないですかぁ。腕ぐらい組みましょうよ、デートっぽく」 「俺はデートに来たつもりはねーぞ」 「じゃあこれ、何なんすか?」 「引率だ」  引率……。これは、アレですか。遠足ですか。斯波さんと言い、志見さんと言い、俺を子ども扱いし過ぎ。俺も40になったんですよ、これでも。 「俺はデートのつもりでお誘いしたんですよ?」 「大人のデートコースじゃねーだろ、動物園は」  うぐっ。そうだったか。だからガキ扱いされるのか、俺は。
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