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1-2
「現世かぁ。何十年、いや、何百年ぶりだ?」
「あの頃は鎌倉時代でしたよね」
「ああ。人間共の醜い争いは見てて愉快だったな」
「そうですね」
閻魔からの任務で人間界に仕事をしに来た。俺はまじまじと変わり果てた地上を見回した。
今は平成と言う時代らしく前とはまた違う殺伐とした雰囲気が流れてる。
よくこんな場所で暮らせるわ。俺なら絶対無理。
そんなことを思っていると、俺の部下である茨木童子がこっちをじっと見ていた。彼は、身長は俺より低く美少年のような容姿だが、くそ真面目でめちゃくちゃ怖い。
俺達は鬼。
鬼といってもそこら辺にいる鬼みたいなのじゃなく、めちゃくちゃ強い鬼で、悪さというよりも閻魔の元で地獄の管理をしてる鬼。
「さて、今日はあの時みたいに観光に来たわけではないのですから、さっそく現場に行きますよ」
「くそっ。なんで、俺達が行かないといけねぇんだよ」
俺が隠そうともしない不満を露わにすると茨木はいつものクールフェイスで任務一覧表に目を落としたまま言った。
「僕に聞かれてもわかりませんよ」
……病院行って亡者取り締まるだけなのに、その一覧表見る必要あるか?
普段こういう手を汚すような事は獄卒の階級が低い奴らの仕事だ。
だから、俺や茨木みたいに階級が超超ちょー! 上の鬼からしたら屈辱的な事だ。
ちなみに、俺が1番上で茨木が次。
「そんな事言ってないで、行きますよ。えっと……あっ。破れた」
茨木の手にしてた任務一覧表がいつの間にか破かれていた。
さっきまで人間に化けてたのに爪は長く伸びていて、立派な角が2本ひょっこりと顔を出している。
幸い人気がない路地裏で話していたから人間には見られなかったが危ない危ない。
「お前も……いや、なんでもない」
やっぱ、なんだかんだ言ってお前も苛立ってるんだな。
そんな事を言いたかったけど、否定されるからやめといた。
茨木は普段は冷静だが、喜怒哀楽結構わかりやすい方だったりする。
そこがこいつの面白ポイント。
「ゴホン……さっ、気を取り直して行きますよ」
「廃病院だな。すぐ終わらせるぞ」
茨木は人間の姿に戻り、俺の前を歩いた。
こいつ、取り乱しすぎじゃない?
こいつに限って上司の前歩くとか有り得ないだろ。
それにーー。
「お前、病院に行く道真反対だけど」
「へっ!? あっ! 失礼致しました!」
こいつはこんな初歩的なミスを犯すなんて、地獄にいた時ではなか……いや、あったか?
まぁ、でも真面目な茨木がミスしてんのも新鮮で面白いけど。
それにしても、歩きってのもなぁ……
「茨木っ」
「なっ!?」
俺は茨木を脇に抱え、高く飛んだ。
屋根の上に着地すると猛スピードで走る。ここから、目的地まで数キロメートル。
俺の脚で行けば20秒もすれば着く。
茨木が「早い早い! 止まってください!」という絶叫が聞こえるが気にしない気にしない。
今止まったら人間にバレちゃうしね〜。
屋根を飛び越えながら進むと、山の中に病院が1つ、ポツンとあった。
茨木はさっきのアナログ絶叫マシーンのおかげで半分死んでいる。
けど、すぐにセルフビンタで意識を戻した。
周辺の人間がいないのを確かめると俺達はいつもの鬼の姿に変わり建物をマジマジと見た。
「こんな所に病院……いったい誰が使用するのですかね?」
「知るか。獄卒が使用してんじゃねぇの?」
「……僕達は人間界の病院なんて使用しませんよ?」
俺が場を和ませようと冗談を言ったのに、真面目な解答がきて顔に熱が集まったのを感じた。
くそ! 俺の気遣いに察しろっつーの!
「と、とにかく入るぞ!」
やけくそになって告げ、ずかずかと病院の扉に向かうと、茨木も後についてきた。
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