ありきたりな女④

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 ふとそう思った。彼女は何処にでもいる女性だが、何処にでもある、誰もが持っていて、誰もが知っている魅力を持っているのだと。だが何故だろうか。彼女だけからそれが見えたような気がしたのは。  ともかく。彼女はまだ三浦謙のモデルをする気があると判り、ほっとした。  事務所と契約したことは来週のモデルの日の報告で構わないと返事をし、多恵子をアトリエから見送った。 「ああ、いけない。また見過ごした」  僕の絵を見て、表情を歪めた彼女の気持ち。それも聞けば良かったと、三浦はまたもや臆病な男になっている自分を踏みつけたい気持ちになっていた。    ◆・◆・◆    それから多恵子はスケジュール通りにアトリエに来るようになった。  モデル事務所との契約も滞りなく済み、三浦謙画伯専属のモデルとなる。ただ、今は未だ――。 「多恵子さん、こちらに集中して」  三浦の指示に、多恵子がこちらを見る。イーゼルの前に立っている三浦と目が合う。 「違う。僕を見るのではないよ。今日のポーズの、指示した視線だ」 「すみません」  今日はケヤキの椅子に座っている多恵子に、窓辺で頬杖をつかせ、窓の向こうを見るように指示していた。だがそんな彼女もじっと動かないだけなのは退屈だったのか、黒目だけがそろそろと動いていたことで三浦の集中力が削がれたのだ。 「うん、それでいい」  最初に指示したとおりの視線に戻る。そして――不思議と多恵子は一度注意すると二度と同じ間違いはせず、今回の視線の注意も一発でその意図を掴んでくれたようだ。
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