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地下鉄を降り地上へ出ると、あのカフェが見えた。そのまま多恵子は急ぐ。
雪が染めていたこの通りも、今はポプラやプラタナスの緑で彩られていた。その木陰に藤岡画廊。店のガラスドアをそっと覗くと、一目で見つけた。奥のギャラリーにある青と白の裸婦画。
「多恵子さん、待っていたんだよ」
多恵子を見つけ、藤岡氏がドアを開けてくれる。
白い裸婦と青い裸婦。
どちらも願ったとおりの絵で、多恵子は微笑まずにいられなかった。
あの雪の日々を過ごした女の顔。そして青いカンバスからは鮮烈な潮の香。
あれから先生がどうしていたか、多恵子に伝わってくる。その匂いは先生の日常になっていると知る。
海が見える窓辺に裸婦、イーゼルに向かっている画家の横顔が見えた。
■ 裸婦/完 ■
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