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不快感に目を覚ました。まだ夜は明けていないらしい。
昨夜散々交わった後、すっかりそのまま眠りこけてしまった。体中にこびりついた汗やその他諸々の体液がすっかり体に染み込み、乾いてしまっている。ある所はベトベト、ある所はバリバリと気持ち悪い。
リョウはシャワーを浴びるため、ベッドからそっと抜け出そうとすると、後ろから伸びてきた手がパジャマの背中を掴む。
「起こしてもた? ごめんな」
振り返ると、アヤが目を開けていた。
「どこ行くの」
「ゆうべあのまま寝てもたやん、シャワー浴びたいなっ、て」
パジャマを掴んだ手は力をゆるめるどころかさらに強くなり、リョウを強引に引っ張った。しゃあないなあ、とボヤきながら、リョウは再びベッドに入った。
「なんなん」
「あともう少し、明るくなるまで、ここにいて」
「……は?」
何をおかしなことを、とリョウは首を傾げた。
「……暗い部屋に一人は、苦手なんだ」
どうやらふざけている訳では無いらしい。アヤの沈痛な面持ちを見れば冗談か本気かぐらいすぐわかる。それに元々冗談を言うような人間でもない。
一人暮らしなのに普段はどうしてるんだ、などという無粋なツッコミは喉の奥へと飲み込んだ。一人でいる時の孤独よりも、二人の時の孤独の方が辛いのは、いつぞやの経験からよくわかる。一緒にいても離れているような、あの寂しさ。
それにしてもこの男は、この顔、この態度で、なんて可愛いお願いをしてくるのだろう。
「わかったよ、可愛い可愛い俺のアヤのお願いやもんな」
頭をぐりぐりと撫で回して、顔の至る所にちゅ、ちゅとキスの雨を降らせた。
「何言ってるの」
照れているわけではない、至って冷静な声色で、眉間に皺まで寄せて、アヤが言った。
「えっ、違うの? 俺のアヤやないん?」
「そこ…は、違わない、けど」
逆にやりこめられて、アヤは視線を外した。
「可愛いって何だよ」
「なあ? 俺だって意味わからんよ、どっから見ても可愛いってタイプやないし年もだいぶ上やしなあ」
上唇を尖らせ明後日を見ているアヤを見つめながら、わざと意地悪なことを言ってやる。
「シャワー行ってくれば」
ぶっきらぼうに言い捨てるアヤを突然羽交い締めにした。
「行かへんよ、アヤが次に目覚ますまで、どこにも行かへん」
「リョウ」
思わずアヤがリョウの顔を見た。
「だからもうちょっと、一緒に寝よ?アヤ寝るまで見てるから、さ」
「……ありがとう」
少し微笑んでそう言ったが最後、会話はやがて寝息に取って代わられた。
「あーどうしよ、ほんまに可愛いんやけど」
アヤを見ていると胸がきゅんと締め付けられ、リョウは足をバタつかせながら、頭から布団をかぶった。
【おわり】
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