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バスは次の富岳風穴のバス停に停車した。 一番前の席に座っていた沢村と女が、すぐにバスを降車していく姿が見えた。 私も少し遅れて席を立ち、バスの降車口に向かった。 「ちょっと待って」 その時、角刈りの男がまた私に声をかけてきた。 だが私は男を無視して、どんどん前に進み、バスを降りようとした。 男の真意は読めなかったが、私を今捕まえようとしている気配だけは有り有りとわかった。 私がバスの料金を払おうとした時、突然男が背後から私を睨みつけながら、不意に手を掴んできた。 「ちょっと…」 男はそう言って、私の手を掴む力を強めた。 その刹那、私は男の方を振り返り、もう片方の手に握りしめていた小型の催涙スプレーを男の顔に噴射してやった。 「うわっ!」 男は急遽、私の反撃に遭い、スプレーを食らって顔を押さえて身悶えた。 本当ならこの男を捕まえて警察に突き出すところだが、今は沢村と女を追いかけなきゃならないので、私は身悶える男をその場に残してバスの料金を払い、急いでバスを飛び降りた。 バスを降りて、停留所の前ですぐさま辺りを見渡したが、沢村と女の姿が見当たらなかった。 私は少し焦りながら、辺りを探しまくったが、しばらくして"富士山のお土産処"と書かれた売店の前に二人が立っているのが見えた。 とその時、背後のバスから目を押さえながら、あの角刈りの男が必死の形相で降りてきて、こちらを睨みつけながら走ってくる姿が見えた。 私も臨戦態勢で男を睨みつけた。
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