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私は売店の前でソフトクリームを買ってから歩いて行く沢村と女の姿を横目に見ながら、背後から迫ってくる角刈りの男に警戒した。
男は、催涙スプレーでやられた目を押さえながら、それでも私を睨みつけて、こちらに向かってきた。
「その場にじっとしてなさい!」
すると急に男はそう私を怒鳴りつけてきた。
「何ですか?!」
私は少し声を顰めながらも鋭くそう呟いた。
「どこへ行かれるんですか?」
男は少し穏やかな表情になって、私にそう聞いてきた。
「そんなこと、あなたに関係ないじゃないですか!何ですか、あなたは?!」
私は、掴みかからんばかりに男ににじり寄り、男の顔を思い切り睨みつけながら、そう怒鳴った。
「え…?あぁ…いや…その…」
すると男は、何故か意外なことに、私に睨みつけられて怒鳴られた迫力に気圧されたのか、急にトーンダウンして目を泳がせ始めた。
何だ、こいつ?
気が弱いのか?
「ちょっと!警察呼びますよ!」
私はさらに男を糾弾するような激しい勢いで、尖った声を上げた。
「い、いや…まぁ…その…」
男はさらにバツの悪そうな顔をして、私から目を逸してそう言いながら後退った。
するとその時だった。
売店の方から"つねさん!"と叫ぶ声がした。
そちらを振り返ると、どうやら声の主は売店の店員の中年女性のようだった。
「何?」
男は急に売店の方を見て返事をした。
ということは"つねさん"というのは、この男のことなのか?
「違うんだよ。その人じゃないよ、今の人たちだよ!」
中年女性の店員は男にそう切羽詰まった声で言った。
「えっ!」
男はそう叫ぶと、急に私のことなどほかっておいて、すぐに売店の方に走って行った。
何だ?
何がどうなってるんだ?
私はさっぱり訳がわからなかったが、ただ、中年女性の店員が言った言葉が少し気になった。
今の人たち?
それは沢村とあの女のことか?
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