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青木ヶ原樹海とは、東京から大阪までの長距離自然歩道中の東海自然歩道であり、その中の山梨県のコースの一部とも言える。
この樹海がある場所は元は湖だったが、貞観6年の長尾山の噴火で溶岩が湖に流れ込んで固まり、その溶岩に苔が生え、木が育ち、そのうちに長い年月を経てこのような森になったらしい。
上空から見ると、まるで緑の絨毯のようで、そこに風が吹くと波がうねるようにも見えたことから樹の海=樹海と名付けられた、と、この場所にやって来る自殺者とおぼしき人物に声掛けをして、自殺を食い止めるボランティアをしている角刈りの男、"つねさん"は、私と一緒に歩きながらガイドのように解説してくれた。
樹海は昔から自殺で有名な場所であることは知っていたが、富岳風穴がその入り口であることは、随分前に何かで聞いたことはあったものの、すっかり忘れていた。
"つねさん"によると、樹海は迷い込みやすい場所とよく言われているが、実際にはちゃんと整備された国立公園で、基本的には誰でも安心して歩ける散策コースが作られているとのこと。
この富岳風穴からのコースは、溶岩洞窟である富岳風穴を抜けて、東海自然歩道を散策し、そこからまた溶岩洞窟の鳴沢氷穴を通って、終点の鳴沢氷穴の案内所まで行くというものらしい。
まずは、富岳風穴の溶岩洞窟へ行くまでの自然道を"つねさん"と歩きながら、私は注意深く辺りを見渡した。
まだそれほど時間が経っていないので沢村と女がそう遠くに行ってるように思えなかったが、自然道は苔が目立つ場所で、その周辺にわりと細い木々がたくさん生えていた。
太陽の光が緑の中に射し込んでいる光景など、苔の緑が輝いて見えて美しいくらいだった。
自殺で有名な場所とは言え、まさに美しき国立公園に相応しい場所に思えた。
だが、"迷い込みやすい場所"では全くないが、自ら進んで迷おうと思えば迷走していけるような場所…というようにも見えた。
だからこそ、"つねさん"は、ここにやって来る不審な人物に声を掛け、自殺を思い止めるボランティアをしているらしい。
樹海の自然道を注意して見渡しながら歩いて行くと、しばらくして、溶岩洞窟の富岳風穴の入り口が見えてきた。
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