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溶岩洞窟の富岳風穴の入口に向かって、私はつねさんと共に、手すりが竹製の階段を降りていった。
「ここにいますかね?」
私はつねさんにそう聞いた。
「わかりません。自然道の中を迷走している可能性もありますが、一応確認してみないと」
「そうですね」
階段を降りきって、いよいよ富岳風穴の入口から中に入っていくと、洞窟らしく一気に冷気が流れ込んできて、とても寒かった。
「寒いでしょ。ここの温度は0度から3度だからね」
そう言うと、つねさんは斜め掛けしたバッグからセーターとマフラーを取り出し、私にセーターを貸してくれ、自分は首にマフラーを巻きつけた。
「どうも」
私はつねさんに頭を下げながら礼を言うと、すぐにジャケットを脱いでブラウスの上にセーターを着込み、その上からもう一度ジャケットを着直した。
多少は寒さを凌げた。
だが閉口したのは寒さだけでなく、黒くて深い洞窟の中が真っ暗闇だったことだ。
「ここの洞窟が黒いのは、岩ではなく溶岩で出来てるからなんですよ。あ、滑らないように注意してください。天井も低いので、あなたかなり背高いから、頭をぶつけないように気をつけて」
「はい」
私は足元にも頭にも気をつけて前に進んだ。
前に進んでいくといきなり目の前に大きな氷が現れた。
それに気圧されながらも、さらに奥に入っていくと、何故か缶が並んでいるのが見えた。
缶の中には何か白いものが入ってる。
「これは?」
私は不思議に思い、つねさんにそう尋ねた。
「ああ、蚕の標本です。ここは昔、寒いので蚕を保管し、後で外に出して孵化させていたのです。この洞窟のおかげで、この地では養蚕業が繁栄したんですよ」
「そうなんですか」
洞窟の中に蚕の保管場所があるなんて実に奇妙な気がしたが、それでこの地で養蚕業が栄えたのなら、この土地にとっては良きことだったのだろう。
そう思いながら、何気なくその蚕の保管場所跡を眺めていた時、ふと地面に何かが落ちてるのが見えた。
何かの衣類に見えた。
何だろう?と思い、近くに寄って凝視すると、それはどこか見覚えのある衣類だった。
その時、はっとした…。
「これは…!」
それは、ここまで沢村と女が着てきたパーカーとスキニーやレギンスにそっくりだった。
それが何でこんなところに脱ぎ捨ててあるのか?
もしこれが沢村と女の衣類だとしたら、二人は間違いなくここにやってきたことの証にはなる。
しかし、何故衣類が脱ぎ捨てられているのか?
私には全く訳がわからなかった。
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