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私はつねさんと、取り敢えず洞窟の一番奥まで歩いていったが、そこの溶岩の上には苔が生えていて、何故か光って見えた。 つねさんによると、その苔はヒカリゴケと呼ばれているそうだが、その洞窟の奥にも沢村と女はいなかった。 「さっき脱ぎ捨ててあった服、あれ例の男女が着ていた服ですよね」 私はそう口にしながら、つねさんの方を見た。 「ああ、そういえばあんなような服装だったかもしれないですね。私もチラッとしか見てないからよく覚えてないけど…。しかし何であんなとこに脱いであったんですかね?」 つねさんはそう言って、不思議そうな顔をして首をかしげた。 「ひょっとしてここが寒いんで防寒具を予め持って来てて、それに着替えたのかもしれないですね。で後でここに、もう一度着替えに戻ってくるとか」 私は考えられ得る可能性を口にした。 「あぁ、そうかもしれないですね。でも戻ってくるにしても、もう2人ともここにはいないようですけどね」 つねさんはそう言って、辺りを見回した。  私も不審に思いながら周りを見渡したが、そこからしばらくして、私とつねさんは今まで通ってきた通路に戻り、そこを折り返して、洞窟の入口の方に戻っていった。 取り敢えず衣類はそのままにしておいて、私とつねさんは洞窟の外に出たが、そこにも沢村と女はいなかった。 洞窟の外にある自然道は眩しいくらいに緑が美しく見えたが、野鳥の鳴き声が辺りに激しく響いていた。 沢村と女はたぶんこの自然道に入り込んでいったのだろうと推察しながら、私とつねさんはそこから1キロ半先の鳴沢氷穴に向かう自然道をすぐに歩き始めた。 自然道の道は溶岩の上に土が混ざったものだったが、特に歩き難いものではなかった。
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