母と息子

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母と息子

「これをこうして…… 」 裕人は慣れない手つきでドライバーを握り、 「ここをこうすれば…… 」 古いラジコンカーを直している。 そんなに広くない和室に入り込んでいた日差しが弱まり始めた頃、 「出来た! 」 畳の上にシールの沢山貼られたスポーツカーを置く。 コントローラーを手にして、 「よし、行けーっ! 」 レバーに指を掛け前へ倒し込むと、キュイーンとモーター音を立て走り出した。 右、左、前、後ろ、裕人の動かす指に合わせて指示通り動いている。 畳を擦るタイヤの音で、母親の美代子はうたた寝から目を覚ました。 音のする方向に目をやる。 息子の裕人の向こうで、畳の縁をガタガタと通り抜けるラジコンカー。 「ひ、裕人、それ…… 」 思わず駆け寄った。 和室を縦横無尽に走り回る車を見つめながら、五年前の事を思い出す。
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