きんいろ、きんいろ。

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きんいろ、きんいろ。

 それを見つけたのは、幼稚園の帰りだ。その当時年長さんだった僕が、幼稚園バスを降りるのは寂れたビルのすぐ前。その、ビルとビルの狭い隙間に、僕はそれを見つけたのである。  二つのビルの隙間はとても狭くて、まだ小さな僕の頭がどうにか突っ込めるかどうかといった幅しかなかった。小さな子供にはあるあるだろう。そういう、暗くて狭いところが妙に気になって仕方ない時があるのだ。暗くて特に何があるわけでもなくとも、その向こうに秘密のスイッチとか、通路とか、宝物でもないかとなんとなく期待してしまうのである。  深く考えていたわけではなかった。  ただ、いつも通り狭くて暗い場所が気になって、じっとそこを覗き込んでしまったのである。 「みーくん、どうしたの?」  どこかに電話をしていたらしいお母さんが気づいて声をかけてきたけれど、その時にはもう僕はしゃがみこんでじーっとその隙間を見つめていたのだった。 ――何かないかな、面白そうなもの。  強いて頭にあったのは、それだけ。とある子供向け映画の影響もあったかもしれない。幼稚園児くらいの女の子が、ボロ屋敷の板の間の隙間に指を突っ込むと、わらわらと黒いススの精霊のようなものが溢れだしてくるのだ。一匹どうにか捕まえたと思ったら、手が真っ黒になってしまっただけでその精霊はどこにもいなくなっていたという、アレ。  自分も面白い生き物を捕まえられるだろうか。じっと観察していた僕が見つけたのは、狭いビルの隙間にある金色の“何か”だった。 ――何だろ。  僕はそれを、お金か何かだと思ったのだ。玩具の、キラキラとしたコイン。もし落ちているならとても気になる。僕は無性に欲しくなって、そっとその隙間に手を伸ばしたのだった。だが。 ――もう、ちょっと、なのに!  届かない。  僕の小さくて短い腕では、ギリギリ金色のそれに触れることは叶わなかった。うーん、と呻きながら体をねじ込もうとするものの、小さな僕であっても入ることができるのは腕一本のみ。頭と胸は突っかかってしまって、奥までねじ込むことは叶わない。そうこうしているうちに、お母さんが駆け寄ってきて“何してるの!”と怒られてしまった。 「やめなさい、そんなとこに手を突っ込んで!抜けなくなったらどうするの!それに、ばっちいでしょ!」 「でも、なんか、きんいろの……」 「何か落ちてたのかもしれないけど、あんな泥だらけの隙間に落ちてるものなんか絶対汚いんだから。いい、触っちゃ駄目よ、ママとの約束だからね!」 「……はぁい」  まあ、至極当然の反応だろう。それこそ隙間にもぐりこんでしまって出られなくなったりでもしたら目も当てられない。ていうか、そもそも手を突っ込んだだけでも不衛生だ。細菌を持っている虫のようなものがいて、感染症になっても困るだろう。  僕は、その時は言うことを聴いた。正確には、聴いたフリをした。  どうしても、闇の中で金色にきらきら光る“何か”が欲しかったから。あれを拾って、絶対に正体を突き止めてやろうと思ったのだ。  残念ながら、母親がいる時に手を伸ばそうとすると絶対に阻止されるので、幼稚園児の頃にはほとんどそのチャンスはなかったけれど。
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