きんいろ、きんいろ。

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 ***  幼稚園バスの旧バス停は、家からさほど遠くない場所にあった。というか、自宅マンションの前の信号を渡って左に曲がったらすぐの場所である。  小学生になった僕にとってみれば、一人で行くのになんら支障のない場所だった。友達を誘うことはしない。僕はみんなより体が小さかったから、みんなは僕よりも腕が長い。僕が“もう少し”で届かない距離がみんなには届いてしまう可能性が高かった。取ってくれるのは嬉しいけれど、そのままその“綺麗な金色”を僕に返してくれない可能性がある。そのまま取られてしまって誰かのモノになるくらいなら、僕一人でどうにかゲットする努力をして自分のものにしてしまいたかったのだ。 「ん、んんーっ……!」  あの時よりも大きくなったので、もう頭を突っ込むことも叶わない。それでも腕一本なら入るので中の真っ暗闇を覗き込みながらぐいぐいと腕を伸ばす。暗い空間に、ぽかりと月のように佇む金色。それは綺麗にまあるく光っているように見えた。どうやら、コインか何かと思っていたが、もっとまんまるな球体であったらしい。サイズは目測で小さなスーパーボールくらいだろうか。 「だ、めかぁ……!」  が、やっぱりもう少しだけあれば、といったところで届かない。あとちょっとのところで指先が触れそうなのに、それが叶わない。 ――もっと僕が大きくなったら、届くようになるのかなあ。  不思議なことに、僕はランドセルに刺さってる定規を駆使して取ろうとか、他に何か道具を使おうなんて発想がまったく思いつきもしなかったのだった。  まあ、テストの点数も悪かったし、単に馬鹿だっただけだろうと言われてしまうとそれまでなのだけれど。
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