きんいろ、きんいろ。

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 ***  中学生になっても、僕の身長は伸びなかった。バスケットボール部に入れば高身長になれるかと思いきや、残念ながらいくら鍛えても身長は160cmどまり。勿論中学二年生ならもっと小さな子もいるだろうと言われがちだが、ことに運動部の他の男子達と比べてしまうなら僕は圧倒的にチビだと言って良かった。中学生でも、170cmを超える生徒は何人もいたからだ。  バスケ部は楽しい。  小柄でも、ポイントガードとしての能力を買ってくれて、レギュラーとして使って貰えるのは嬉しい。でも、そもそも僕は身長をぐんぐん伸ばしたくて運動部に入った経緯があるのだ。バスケをやるのがいくら楽しくても、身長が伸びてくれないのなら正直意味がないのではとさえ思っていた。確かに僕の親戚はみんな身長がさほど大きくない人ばかり、お父さんだって170cmあるかどうかといったくらいの背丈しかない。でも、毎日運動して、牛乳飲んで、規則正しい生活を心がけているというのに。 ――大きくなって、腕が長くならなきゃ。  僕は毎日学校帰りに、あのバス停の前に行く。ビルとビルの暗い隙間に腕を突っ込んで、あのキラキラした金色に手を伸ばす。 ――そうしたら、絶対。絶対絶対絶対、あの綺麗な金色が取れるようになるのに。  真っ黒な空間に浮かび上がるそれは、相変わらずもう少しのところで届かない。思ったより軽いのか、時々風と一緒にゆらゆらと揺れているように見えることもあった。これは、金色のボールか何かなのだろうか。こんな真っ暗で砂まみれの隙間に落ちているのに、なんでこの金色だけは何年も色あせることなく輝いているのだろう。月というより、小さな太陽が落ちているかのようだと思った。  触ったら温かいのだろうか。  それともひんやりと冷たいのだろうか。 ――確かめたい。  しかしやっぱり、僕の手が金色に触れることはついぞなかったのだった。
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