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あの時、勇気を出して気持ちを伝えていたら、君は死なずに済んだかな。
「あなたには、やり直したい人がいるでしょう?」
目の前で水晶玉に両手をかざしながら、妖艶な美女が問う。
私にもこの人のような美しさがあったなら、彼の恋人になれていたのかな。そんなどうしようもないことをぼんやりと頭に浮かべながら、小さく言葉を落とす。
「……います」
仕事の帰りにふらっと寄った、雑居ビルの中にある占い屋。
占いは、どちらかと言えば信じないタイプ。でも今なら、そんな不確かなものにすがりつきたくなる人たちの気持ちがわかる。
占いでも幽霊でも、何でもいい。すがりたかった。そうでもしないと、心が壊れてしまいそうだったから。
「もし、時を戻すことができたら、あなたはその人に伝えたいことがありますか?」
「はい」
ある。あるよ。伝えたいことがたくさん。
でももう、それは叶わないんだ。
だから、こんなに苦しい。もうずっと、出口の見えない暗闇にいるみたい。
少し間をおいて、占い師が何かを取り出した。
「『イエローテレフォン』。このカードをあなたにあげましょう」
「いえろー……?」
差し出された手の平の上には、女神が描かれた黄色いカード。0、5、10の3つの数字が刻まれている。
「テレホンカード……ですか?」
「ええ」
でも、普通のテレホンカードと数字が違う。
「このカードで、どの時間のどの人にも電話を繋ぐことができます」
私を映す瞳が、怪しげに揺れる。彼女の艶やかな口元は、静かに微笑みを浮かべていた。
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