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ーーガコンっ。 よし、これでいいかな。 ブレザーのポケットの中に長財布を入れ、自販機の取り口にある300mlのお茶を3つ手に持った。 結露のついたひんやりとしたお茶が気持ちよくついつい頬に当ててしまう。 あー。冷たい。一生こうしてたい。 のんびり歩いて曲がり角に差しかかった時曲がり角の向こうから足音が聞こえたと思ったらトンっと誰かにぶつかった。 黒髪ショートの女の子。制服はここの制服だが水色の中学の指定セーターと赤いリボンで中学生だとわかる。 ここの学校は中高一貫なのだが、中学生は中学棟に基本いるためここにいるのは珍しい。 「ご、ごめんなさい」 「こっちこそごめ……」 その女の子は急いでいるのか俺の言葉を最後まで聞かずに走り去っていく。 あの子……真夏にセーターって暑くないのかなぁ。相当の寒がり的な? 他に考えられることは……いや、いいや。急ご。 これ以上推理しても今は時間の無駄だと思い、さっきよりも少し早歩きで俺は部室へと向かった。 ◇◇ 部室の扉の前までたどり着くと中からなにやら楽しそうな声が聞こえてくる。 意外と早く打ち解けたみたいだな。 横扉を開き、中に入る。 「おー! 遅そいよ! 助手君!」 「ありがとうございます! 玲音さん!」 「は、はい」 どうしたら短時間でこうなれるのか、安藤さんの変わりようがすごい。 安藤さんの前にペットボトルを置き、今度は陽向さんの前にペットボトルとお財布を置いた。 「お財布ありがとうございます」 「おう! ……て、え? おまっ! いつの間に取った!?」 慌てて長財布のチャックを開け中身を確認している。ちなみに、残金は38円。 「俺をパシリにさせた陽向さんが悪いですよ」 「泥棒が出たぞ! この名探偵が推理してやる!」 「いや、もう犯人俺だってわかってるじゃないですか」 「あ、そうか。事件解決! ハッハッハ!」 この人は情緒不安定か? 謎に気を良くしたらしいが財布の警戒は厳重で直ぐにブレザーの内ポケットに入れた。 「それにしても、水でもかかったの?」 「へ?」 「ほら、そこめっちゃ濡れてる」 指摘されたところに目をやると右肩から胸にかけて濡れていた。水に濡れた覚えはないし、強いて言うならぶつかった時のあの子の汗が着いたのだろうか。 今日は暑いし、仕方ないか。 「そうですね。どこかで濡れたのでしょう」 いちいち言うことでもないと思い、適当に流しながら自販機に行く前に用意した椅子に座った。 「んじゃ、そろそろ雑談は終わって本題と致しましょうか」 陽向さんは急に真面目モードになり、若干前かがみになって両肘を机につき、顎の近くで指を絡めた。 賑やかだった教室が水を打ったように静寂が流れ安藤さんがゴクッと生唾を飲んだ。 「まず、依頼内容を教えてもらおうかな」 「はい。その……さっき陽向先輩に話した彼女の事なんですけど。あの、浮気してるかもしれないんですよ」 陽向さんが「ほぉ」と興味深そうに呟く。 ドロドロの恋愛。いかにも今回は探偵っぽい依頼だ。 「なにか、浮気を匂わせる行動があったんですか?」 俺が口を挟むと、安藤さんは眉間にシワを寄せ、ぎこちなく首を縦に振った。 「疑いたくなるような行為が3つあって、1つは単純に会ってくれなくなった。 2つ目は俺がロング髪が好きって言っててずっとロングにしてくれてたんだけど、5日くらい前にショートになってしまった。 最後はこの間すれ違った時俺とオソロで買ったストラップが鞄についてなかった。です」 簡潔にまとめてくれて、俺の中でも整理しながら情報を取り入れることが出来た。 陽向さんは革風のあまり使ってなさそうな綺麗な手帳と綺麗な万年筆でサラサラとメモを取っている。 「よし! わかったぞ!」 メモを取り終えたのか万年筆を乱暴に机に叩きつけ、陽向さんが立ち上がる。勢いがありすぎて陽向さんの座ってた椅子が後ろにガシャンと音を立てて倒れた。 「もうわかったんですか!? さすがは名探偵!」 安藤さんが拍手で称えると、誇らしそうに鼻をさすりながらメモを見た。 そして、酸素を全て取り込むように空気を深く吸い腰に手を当てる。 「ーーずばり浮気だ!」 「「……」」 うん。まぁ、確かにその説はあるから否定は出来ないけど……他の解答を期待してた自分がいる。 安藤さんもあまり納得いってないのか口を何度か開いたり閉じたりして返答を考えてるようだ。 俺は倒れた椅子を元通りに戻すと、陽向さんは再び腰をかけ足を組んだ。 「僕の推理はこうだ。まず、会ってくれなくなったは単純に会えない理由があるから。つまり、浮気相手と会っている。 2つ目の好みの髪にしてくれてたのにそれを変えたは、浮気相手の好みに合わせたとか、安藤くんに嫌われようとしてる。 3つ目のオソロのストラップがなかったは、安藤くんとの絶縁を狙って外したか捨てたか。 つまりーー」 パチンと指を鳴らし笑顔を浮かべようとしたが、すぐに眉間にシワを寄せ険しい顔になった。 おおかた、推理が解けて嬉しかったが、状況が状況のため笑えなかったのだろう。 少し間をあけて芝居がかった雰囲気で重々しく口を開く。 「ーー彼女は浮気してる可能性が高い」 「そ、そう……ですよね……」 安藤さんは初めに部室に入ってきたかのように元気がなくなり、目線を落として自嘲の笑みを浮かべた。 可哀想なくらい落ち込んでしまってる。 お節介かもしれないし、最終的に上げて落とすことになるかもだけど、無くない可能性だから助け舟を出そう。 俺は「はい」と言って右手を上げた。 「ーーそれじゃあ、今度は俺の推理も聞いてくれませんか?」
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