火曜日「デート」

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火曜日「デート」

僕の名前は新谷光、烏丸大学3年生。 成績は中の上、所属サークルはフットサル、趣味は漫画とアニメ。 ごくごく普通の大学生だが、僕には一つだけ人に自慢できることがある。 それは・・・・・ 彼女がめちゃくちゃ可愛いことだ!!! 彼女の名前は、折原璃子。 隣町の女子大に通う同じ大学3年生。 身長は168cmでスレンダー、色白、黒髪ショートボブ、大きな瞳、整った顔、アイドルグループのセンターを張っていてもおかしくないくらい可愛い。 いや、正直言って腐るほどいるアイドルなんかより全然可愛い。 デートで一緒に歩いていると、男たちの彼女への視線を感じるし、僕が隣にいるにもかかわらず、街を歩いているとスカウトされるくらいだった。 知り合ったのはバイト先のシネコンだった。 もちろん僕みたいな平凡な男には高嶺の花だった。 バイト先の奴らが何人も告白して断られているの見てきた。 イケメンのバイトの先輩が付き合っていた、そこそこ可愛い彼女と別れて璃子に告白して断られているのをみて、僕なんかじゃ絶対無理だと思っていた。 思っていたのだが・・・・・・ バイトの休憩中に好きなアニメや漫画の話をしたり、とりとめのない雑談をしていくうちに僕は璃子のことが好きになっていった。 話をできるだけでも十分に楽しかったし幸せだったが、そんな時間を重ねていくうちに僕の璃子への気持ちはどんどん大きくなり、我慢できなくなっていった。 ある日、同じシフトのバイトの日、帰りの駅に向かって一緒に歩いている時に僕は玉砕覚悟で告白をした。 「あのさ・・・・・」 「ん?なに?」 「折原って今付き合ってる人いるの?」 「いないよ」 「そう・・・えーと・・・・じゃあ・・・俺と・・付き合ってくれませんか?」 「いいよ」 「うん・・・そうだよね・・?え?」 意外な答えが即答で返ってきたので困惑していた。 「え?まじ?え?ほんとに??」 「え?なんで?ほんとだよ、よろしくね」 「まじか・・・・えーと・・・じゃあ、メシくって帰んない?」 「うん、いいね!」 「何食べよう・・・パスタとか?」 「ラーメン」 「え?」 「光くんがこないだ美味しかったって言ってたラーメン屋さん行きたい」 「良いの?そんなんで?」 「うん。話聞いて行ってみたかったんだ」 「オッケー、じゃあ行こう!」 初デートはラーメン屋だった。 璃子との恋人生活が始まった、なるべく同じ日にバイトに入れるようにシフトを決めたり、休日には夢の国にデートに行ったり、お互いのおすすめの漫画やアニメを一緒に見たり。 大学生なんで・・・その、まあ、大人の付き合いも、もちろんあった。 璃子はほぼ完璧な彼女だった。 可愛いし、話も合う、えーと・・・体の相性というか、そういうことを含めて本当に文句のつけどころがなかった・・・ただ一つ・・・璃子が自分がアンドロイドだと信じている。ってこと以外は。 違和感を感じたのは僕が璃子にある質問をした時だった。 「あのさ・・・」 「なに?」 「なんで俺と付き合ってくれたの?」 「えーとね、すごく良いDNAを持ってそうだったから」 「え?DNA?」 「うん、いろいろセンシングしたり、行動パターンの解析をしたり、あと、虹彩の輝きとか、匂いとか、いろいろ分析した結果、すごく私に合っているDNAを持ってるなって思ったから」 「・・・・センシング???」 「うん、私アンドロイドなんだけど、色んなセンサーでデータを収集できるの。 光のデータはすごく良くって、あとは行動パターンから推測できる未来予測もすごく良かったの」 「アンドロイド?」 「うん、そうだよ。でもね・・・・最終的な決め手は・・・」 「・・・・」 「やさしそうだったから」 そう言って璃子は僕の唇に軽くキスをしてくれた。 アイドル並に可愛くて、性格も良くて、話も合う、一つくらいちょっと変なところがあったって何も問題はない。僕は璃子のことが大好きだった。 確かに璃子は人間離れしたところというか、変わった部分があった。 まず、知り合いから聞いた噂によると、学校の成績がものすごく良かった、海外の大学から留学のオファーが来るほどの論文を書いたらしい。 璃子の天気予測はどんな天気予報よりも正確だった。あとは、璃子と待ち合わせをすると必ず時間通りにやってくる。 分刻みではなく秒刻みでだ。 初めは『時間ぴったりにくるなぁ』と思っていた程度だっただが、あまりにも時間ぴったりすぎるので、ある日の待ち合わせの時に時計を見ながら待っていた。 遠くに璃子が見えてきた、待ち合わせ時間まであと20秒・・・・ 10・9・8・・・・・・ 璃子がどんどん近づいてくる。 3・2・1・・・ 「お待たせ」 待ち合わせ時間ぴったりに到着した。 この日は偶然だったかもしれないと思ったが、その後も何回か時計をみながら待っていた。そうすると、人身事故などで電車が遅れた日ですら、璃子はいつでも時間ぴったりに待ち合わせ時間にやってきた。 そして、映画を見るために待ち合わせしている今日も・・・ 3・2・1・・・・ 「お待たせ」 今日もいつも通り、時間ぴったりに璃子は待ち合わせ場所に到着した。 2人で観た映画は璃子のおすすめの漫画のアニメ化されたものだった、内容はイマイチだったが、そんな時でもその後に食事をしながら映画の感想を話すのが楽しかった。 「声優のイメージがちょっと違ったね」 「だよね、ちょっと売れっ子を使えば良い的な感じはあったよね」 「CGは思ったより良かったけど、テンポがイマイチよくなかったね」 「たしかにねー、1本の映画にするにはちょっと長いけど、3部作となる・・・」 「ちょっと間延び感があったね」 映画の話でひとしきり盛り上がった後、璃子が僕のほうをジーと見つめ 「なんか調子が悪そうな気がするんだよね・・・・」 「え?なんの調子?体調?」 「うん・・・」 「大丈夫?風邪ひいた?早めに帰ろうか?」 「いや・・・私じゃなくて・・光・・・」 「え?俺?全然元気だよ笑」 「今もちょっとセンシングしてるんだけど・・・なんだろう・・・心拍音かな・・」 「え?なんの問題もないよ」 去年のクリスマスにお互いにお揃いスマートウォッチ買って、いつも身につけているようにしている。 スマートウォッチのヘルスケア機能を確認しても何も問題はなかったので 「ほら、見てみて心電図も『異常なし』だよ」 「うーん・・・・そうなんだけどね・・・ちょっと気になるから暇の時に病院行ってみてよ」 「え?なんて言って診て貰えばいいの?」 「そっか・・・そうだね・・・」 その日は二人とも次の日の午前中に授業があったので、お互いの家に帰った。 電車に乗っていると璃子から連絡が来た。 『やっぱり気になる。ちょっと気をつけて生活してね』 『わかった、ありがとう』 ここまで言われると少し気になるが、自分自身まったく調子が悪い自覚がないので何に気をつければ良いのやら・・・・・・ 次の日、授業を終えてバイト前に昼食を食べようと、久々に学食に行くとサークルの友人に会った。 「新谷、久々じゃん!!お前彼女できてからサークルもあんま来ねーし」 「ああ、ごめんごめん、なるべく顔出すよ」 「めちゃくちゃ可愛いって噂なんだけど・・・今度サークルに連れてこいよ」 「うーん、あんまりみんなでワイワイって言うの得意じゃない感じなんだよね」 「なんだよ、自分だけの物にしておきたいってか?」 「いやいや、そんなんじゃないんだけど・・・ちょっと変わったところあるんだよね・・」 「変わってる?どんなふうに?メンヘラ系?」 「メンヘラとはちょっと違う気がするけど・・・自分をアンドロイドだって言ってる」 「はぁ?だいぶイッちゃってる子なの?」 「いや、普段は全然普通だよ、たまぁ〜にね、変なことを言うんだよね」 「たとえば?」 「まさに昨日なんだけど、俺のことをセンシングしたら心拍数がちょっとおかしいような気がするから気をつけてって・・・」 「センシングってなに?」 「センサーをつかってデータを取って分析すること」 「・・・・へぇ・・・・変わってるね」 「たまにだけどね、そういうこと言うのは」 「まあ、いいや、たまにはサークル顔出せよ!」 璃子は今日午後も授業があるので、久々に一人でバイトに入った。 平日の午後ということで、バイトをしながら世間話をできるくらい暇だった。 「新谷さん、今日彼女さんと同じシフトじゃないんですね」 「うん、璃子は午後も授業だから、今日は俺だけ」 「いやぁ・・でもまじ羨ましいっす、あんな可愛い彼女がいて」 「うん、俺も自分でもたまに信じられない時あるけどね」 「またまたぁ・・・・新谷さん今日バイト終わった後暇ですか?」 「え?うん、まあ空いてるけど」 「メシ行きません?彼女の作り方教えてくださいよ!」 「ああ、まあいいけど明日午前中に予定あるから早めに終わるなら」 久々にバイト仲間と近くの居酒屋で飲むことになった。 たしかに良く考えると璃子と付き合ってから友達と会う機会が減っていたように思う。 久々の飲み会。といってもサシ飲みだけど、は楽しかった。 「まじでどうやって落としたんですか?璃子さん」 「いやどうやってもなにも、ただ玉砕覚悟で告白しただけだよ」 「新谷さんから告ったんすね」 「当たり前じゃん、俺が告られるはずないじゃん笑」 「いやでも、もう付き合って結構経つんですよね?」 「そうだなぁ・・1年ちょっとになるかなぁ・・・」 「いいなぁ・・・璃子さんの友達とかでいい子いませんか?紹介してくださいよ」 「うーーーん・・・俺もそうなんだけど、璃子もあんまり友達多い方じゃないんだよね・・」 ブーーーー 璃子からLINEが来た 「あっちょっと待って」 『明日10時駅前、忘れないでね、あと飲みすぎないようね』 『うん、わかってるよ、大丈夫』 「彼女さんっすか?」 「うん」 「なんすか?」 「いや、明日の待ち合わせの確認と飲みすぎないようにって」 「くぅ・・・うらやましい・・・・」 璃子に釘を刺されたので早めに解散をしたが、久しぶりに結構飲んでしまったので結構酔っていた。明日の待ち合わせに遅れないように、シャワーを浴びてベッドに横になった。 テレレテンテテーン、テレレテンテテーン、テレレテンテテーン 2回目のアラームで目を覚ました。 やばいぞ、ちょっと寝坊した。 急いで準備をして家を出た。 小走りで駅に向かうとちょうど電車が来て、なんとか予定通りの時間に着きそうだ。 待ち合わせ時間3分前・・・ 璃子は時間ぴったりに来るだろうからなんとか間に合った。 慌てて向かってきたので、少し息を整えて・・・ 待ち合わせまで、あと10秒・・ 3・2・1・・・・・ 0? 璃子が来ない? 普通の子なら別に驚くことはないんだろうが、璃子は付き合ってから1年以上一度も遅刻どころか、必ず時間ぴったりに来ていた。 慌ててLINEを送ったが既読にならない。 通話にしても出ない。 こんなことは一度もなかったので、慌てて璃子の家に向かうことにした。 璃子の家は駅から歩いて5分、走れば2、3分で着く。 はぁはぁ・・・・ 嫌な予感と胸騒ぎがする・・・ 鼓動が早くなっていく。 璃子のマンションに着き、オートロックの暗証番号を押し、エレベーターを待っている時間も惜しくて、3Fの部屋まで階段で走って向かった。 部屋の前に着きインターホンを押したが返事がない、LINEも未読のままだ・・・ 合鍵を使ってドアを開け、部屋に入ると・・・ リビングで倒れている璃子の姿が・・・・・ 「璃子!!!!!!!!!」 テレレテンテテーン、テレレテンテテーン、テレレテンテテーン 『夢・・・・・・か・・・・』 よかった・・・昨日釘を刺されてプレッシャーに感じていたのかな・・・ 夢だとわかってもまだ心臓が少しドキドキしている・・・ 少し???・・・・か? あれ?なんかおかしいぞ・・・・ 動悸がどんどん激しくなってきた・・・ 胸が痛い・・・・・ あれ・・・・視界が・・・・・ 視界がどんどん狭くなってきた・・・・・ 意識が遠のいていく・・・・・・・・ ドン!!!ドン!!!!ドーーーーン!!!! ものすごい音とともに誰かの気配を感じた・・・・ 『璃子?』 遠のいて行く意識の中で僕に向かって叫んでいる璃子の顔が・・・・・・ 『人命救助モード起動します』 『状況確認開始』 『搬入受け入れの可能性が一番高い病院を検索』 『検索完了・・・救急車の手配を行います』 『ピーピーピー、バイタル低下』 『ビービービービービー!!!!!心肺停止、心肺停止』 『両手をAEDモードに変更』 『AED起動します』 ピーーーーーーーーーーー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 気がつくと病院のベッドだった。 「おかあさん、目が覚めたみたいですよ」 「光、大丈夫?具合は悪くない?」 「え?うん・・ああ・・・えーと・・・」 「あなた部屋で倒れたのを璃子ちゃんが見つけて救急車を呼んでくれて・・・もう少し見つかるの遅かったら、あなた死んでたってよ」 「え?」 「えーーーーーと・・・・・」 頭が混乱していた・・意識をなくす前に見た璃子は幻じゃなくて本当の璃子だったのか? 「あーーー、なんか飲みたい・・・・」 「私なんか買ってくる」 「あっ璃子ちゃんは、ここにいてわたしが買ってくるからまってて」 母が売店に向い病室に璃子と二人きりになった。 「あのさ・・・俺意識なくす瞬間に璃子の顔を見えたんだけど、幻、幻覚かと思っていたんだけど、本物だったんだ・・・・」 「うん」 「えーーーと・・・・なんでわかったの?」 「うんと・・・・2つ謝らなきゃいけないことがあるんだけど・・・・・・」 「え?謝る?」 「うん・・・・」 「なになに?怒らないから言ってよ。っていうか命の恩人なんだし」 「ほんとに?」 「もちろん」 「えーと、この間から光の心拍というか・・・なんか体の調子が悪そうなのがどうしても気になって・・・スマートウォッチのバイタルデータをこっそり私に送るようにしていたの・・・」 「え?どうやって?」 「すごく簡単にいうと・・・ハッキング・・・・・」 「う・・うん、それで?」 「それで、朝起きたら明らかに光のバイタルに異変があって、すぐに光の家に向かったの」 「うん、でも、そのおかげで助かったんだし・・・まあいいよ」 「ごめんなさい・・・・・」 「えーーと、2つって言っていたけどもう一つは?」 「・・・・・・・・」 「何?絶対怒んないから言ってよ」 「光が死んじゃうかもしれないと思って、すごく慌ててて、すごく急いでて・・・」 「うん」 「合鍵もっていくの忘れちゃって・・・・」 「え?うん・・・」 「ドア・・・・蹴破っちゃった・・・・・・」 「え?」 「光の部屋のドア、蹴破っちゃった・・・・」 「え?どうやって?」 「どうやってって・・・思いっきり蹴って・・・」 「え?」 「ごめんなさい・・・・・」 「・・・・・あはははは、全然大丈夫だよ。璃子ありがとう」 女の子が、いや・・・男だって、マンションのドアなんて蹴破れるはずはない。 人間ならね。 僕の自慢の可愛い彼女はどうやら本当にアンドロイドなのかもしれない。
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