ネコの気持ちはわかるまい

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「休憩にならなくてしんどいかもしれないけどごめんね」  社内だと話しづらいこともあったから、と、また少し悲しそうな顔で宮代さんは言う。  それはまあ――そうだろう。女性にセクハラの危険なしと判断し配属した根拠について所属長が聞いていない筈がない訳で、最悪俺はオトコと見るや鼻息荒く襲い掛かる色情狂扱いで伝えられているのかもしれない。  タイプドンズバの人にあまり嫌われたくはないけど、難しいだろうなあ……。  浮ついていた気持ちを抑え込み、せめてこれ以上印象を悪くしないように口角を上げてみせる。 「お気遣い頂き有難うございます。  僕も、可能なら釈明の機会を頂きたかったので有難いです」 「釈明? あぁ……うん、いや。  とりあえず何処か入ってからにしよう」  それなりに人出のあるオフィス街の昼時にしてはあっさりと腰を落ち着けることが出来た。  限られたメニューでランチ営業をしているらしい居酒屋は、なるほど憚りのある話には都合がいい個室完備。俺にとっては有難い環境だけど宮代さんは気にならないんだろうか?  ゲイだと知るや警戒を隠しもせず痴漢や強姦魔を見る目を向けてこられる――そんなシチュエーションをよく聞かされてきた。体格に恵まれた人は、変に恐れたりすることはないんだろうか。 「ここ、とにかく出てくるのが早いんです。  無理言ってるから……慌ただしくてごめんね」  この様子はもしかして、俺の『性癖』についてはお聞き及びでない?  それならそのほうがもちろん好都合だけど、と差し出されたメニューを受け取る。早い方がいいなら丼ものにしておこうか。 「これで歓迎というのもなんなんだけど、せめて好きなものを頼んでね。  会社から出るから」 「有難うございます。じゃあ海鮮丼で……」 「遠慮しないで、若いんだから肉のほうがいいでしょう」 「や、あの、魚好きなんで大丈夫です!」  俺の手元のメニューをのぞき込む動きで距離が詰められ、体感温度が上がった感覚。  クールビューティなんて陳腐な呼ばれ方もされてきたけど、そんな過去が猫かぶりひとつの役にも立たないほど動悸息切れ発汗赤面が止められない。  宮代さんに乗っかられたい……!  縦に高いだけじゃない、服の上からもわかる筋肉の厚みでのしかかられてつぶされて、窒息しそうに貪るキスで煽られてみたい。後ろから獣のように、きっと熱くて大きいだろう性器で穿たれたら――。  出会って数時間で淫らな妄想を展開するのも気が咎めるが、どのみち妄想止まりでしかないんだ。  どうあれしばらくは身を置くしかない職場の、ささやかで個人的な潤いとして使わせてもらいたい。せめてそれくらいの見返りがあってもいいだろう、と、いつのまにか注文が通り目の前に置かれた海鮮丼の艶やかな赤身に目をやった。
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