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「で?
別にあーしは誰がテッペンでも給料分仕事するだけだけど」
ゆるふわ、女子力、愛され――そんな形容を欲しいままにしそうなビジュアルからえらくすれっからしなご発言。俺の背中にすがる宮代さんはびくりと跳ね上がり「や、違うんです那須さん」とか細い声を発している。
「宮代クンさあ……」
「は、はいっ」
「いい加減そのビクビクブルブルすんのうぜーから新人立てるってのはまあいいわ」
「いい、ですか」
「最後まで聞いてくんねぇかな?
ソイツで、そうは言ってもここ回してきたアンタの代わり務まんのかよ」
すごむ那須さんは視線で俺を諸共になで斬りにしてくる。
剣呑さの裏にはおそらく宮代さんに対して一定程度の信頼があって、ぽっと出のひよっこたる俺が気に入らないんだろうな、というくらいは想像がつく口調だった。
「僕は……フィルターみたいなものだと思って頂ければ……」
「………フィルター」
「はぁ? なんだそれ」
あれ、そういう理解では間違ってただろうか。宮代さんも一緒になって怪訝な顔を見せている。
涙にくれる宮代さんの『お願い』、それは部署の女性とのやりとりの間に立ってほしいということだった。メンタルの都合で女性恐怖症のような状態に陥っているためその対策として、とのこと。原因と経緯については情報不足、聞き取り未完。昼休みの時間内に把握するには情報量が多すぎた。
「ええと、宮代さんの装備品みたいな……?
代りとかではなく」
「聞いてんじゃねぇよてめぇのことだろうが」
第一印象はなかなか最悪みたいだ。
ただ俺にとって幸いなのは、那須さんはあまり声を荒らげることはなく、どちらかというと低音のすごみで迫るタイプらしい。この先宮代さんの窓口になって会話していくのは、特段苦にはならないだろうという気がする。
「だいたいコイツ、男が好きってんなら女とかわんねぇだろうがよ、
宮代クン」
「ひぇっ、あっ、那須さん、
それは崎谷くんに対して失礼です」
この会社は人の性的指向をどれだけの範囲で公開してくれちゃってるというのか。どうせそんなことだろうとは思っていたがもはやへらへらと笑うことしかできない。
でも宮代さんが恐怖をおしてたしなめてくれたこと、そして那須さんが(わかりづらいけど)俺を信用せず警戒して、宮代さんを案じていることは嬉しい。
「ご心配でしょうけど、僕は当面ここで働くしかないので。
職を危うくするような真似はしません」
「……ハッ!
じゃあ根性見せてもらおうじゃねえか」
きっちり一人頭稼働して、その上でフィルターやるんなら何も文句ねえからよ。
ミュート状態だったら『あざとい』とでも言えそうな笑顔で那須さんは釘を刺し、話は終わったとばかりヘッドセットを装着した。
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