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〈莉子ちゃんへ〉
莉子ちゃん。こんな形で伝えることになってごめん。慣れない手紙で読みにくいかもしれないけど、自分の気持ちが伝わると嬉しい。
莉子ちゃんには謝らないといけないことがたくさんある。君は自分の過去を俺に教えてくれたのに、俺は言ってないことがたくさんあった。
3年前の事件のこと。莉子ちゃんのお父さんは俺が中学3年生の時の担任の先生だった。西野先生にはすごくお世話になった。なぜなら俺は病気を持っていて学校生活に困らないように支えてくれたのが西野先生だった。
俺は心因的なストレスでの失声症で、声が出ない病気を患っていた。小さい頃、俺の両親は事故に遭い、命を落とした。それから親戚の叔父の家に住むようになってから精神的な病いから声が出なくなる病気を持っていた。精神的に落ち着いている時は少し声を出せる時期もあったけど、多感な時の中学生の時期はまた声が出にくい。だから俺は友達とも上手く付き合えず、クラスでは孤立していた。声が出ないこともあって特別支援学校に転入することも考えたが、なるべく普通の中学校で友達を作って授業を受けたい。そんな俺の気持ちを受け取ってくれて、学校生活に支障をきたさないように考えてくれた唯一の先生が西野先生だった。先生は俺にとって、恩師だった。
先生はクラスでも浮いていた俺をいつも話しかけてくれて気にかけてくれた。声が出せない時は手話を見せてくれて意思疎通をしたことがあった。先生は全く手話について知識がなかったけど勉強をしていてくれたらしい。そんな努力をしてくれる人だった。難しい時は筆談をして会話をしていた。声を出すという方法を避けて授業に取り組めるように、どんな形になろうとも懸命に向き合ってくれた。
だからショックだった。あの事件によって大切な先生を失った。そして、あの事件で先生が亡くなったのは、俺のせいだった。
事件が起きたあの日、花火大会があった俺は親戚の家から近くのスーパーに買い物に行き、帰っている時だった。路地裏に座っていた人に突然話しかけられた。それが事件の加害者の人で、俺は初対面だった。突然、加害者に財布を出せと言われたんだ。俺は声が出せないから助けを求められない。困っていた時に先生が偶然居合わせて助けに来てくれた。
先生は加害者の生徒を説得していた。もうこんなことは辞めなさい。だけど加害者は手に小さなナイフを持っていた。それは本物だった。
先生は俺に言ってくれた。「ここから逃げなさい。あとは先生がどうにかする。助けを呼んできて」と。俺は先生を置いていくのを躊躇ったけど助けを呼びに行こうとその場から離れてしまった。必死に助けを求めた。だけど声が出ない。遠くに人がいたとして声をかけることができなければ追いかけることも時間がかかる。すぐ近くのコンビニに駆け寄り、店員に助けを求めるが声が出ないから筆談で伝えた。もし大声を上げていたら近所の人も助けてくれたかもしれない。助けを呼ぶのが遅くなってしまった。帰ってきた時には先生は倒れていた。自分のせいだと思った。財布を盗まれそうになったのは自分の声が出なかったから。すぐに助けを求めることができなかったのも声が出ないから。
俺はあのとき、先生をおいて逃げてしまった。先生のことを見捨ててしまった。先生を失ったのは、俺のせいなんだ。
莉子ちゃんが自分のせいでお父さんを失ったと言っていたけど、それは違う。俺のせいで莉子ちゃんのお父さんを失わせてしまった。本当に申し訳ないと思ってる。
それなのに俺はあの日に起きた事件を忘れようとした。自分の身を失ってでも生徒だった俺を守ろうとしてくれた先生がいたのに、その事実を忘れようとした。莉子ちゃんのお母さんにも直接話をせずに、あまり事件について喋ることができなかった。俺は数年経ち、だんだんとまた声が出せるようになった。だけどあの事件を思い出せばトラウマを引き起こし、また声が出なくなるのではないかと思い、忘れようと必死になっていた。
だから莉子ちゃんが同じ高校に入学したのを知った時、俺は驚いた。莉子ちゃんは本当にお父さんにそっくりで、苗字を西野と知った時、確実に先生の娘だと気づいていた。
また事件のことを思い出してしまうのではないかと思い、なるべく関わらないように過ごそうと思っていたけど君のことが気になった。ずっと頭の中にあった。
そんな時、旭町で通り魔事件が起きた。西野先生が旭町に住んでいたのは知っていたから莉子ちゃんが今も旭町に住んでいるのは分かってた。俺は昔、先生のことを助けられなかったから、どうか娘の莉子ちゃんだけでも支えることができたら、救うことが出来たらと思った。そして偶然、不審者から助けた時、思ったんだ。君を守りたいって思うようになった。
莉子ちゃんが夜の道を歩けないと教えてくれた時。そのトラウマを起こしてしまったのもあの事件のせいで、俺も責任を感じた。先生が俺を助けたから、先生も失って、莉子ちゃんにさえ心に傷を負わせてしまった。だからどうしても莉子ちゃんには夜道が歩けるようになってほしかった。
だけど、結局、また莉子ちゃんを苦しめるようなことが起きてしまった。通り魔から莉子ちゃんを守ることが出来なかった。西野先生も、莉子ちゃんも。俺が関わってしまったせいで、事件の被害に遭ってしまった。申し訳なく思う。許されないことをしたんだ。事件のことを黙ってて、ごめんなさい。
先生から、よく莉子ちゃんの話を聞いていたよ。先生は仲の良い娘が1人いて、性格も似ていて仲が良いと。話を聞いていて、その時から莉子ちゃんがどんな子なのか、ずっと気になる存在であった。
最初は助けたいという思いから莉子ちゃんに近づいた。もしかしたら自分のために起こした行動かもしれない。先生を救えなかった懺悔から、莉子ちゃんを救うことで、俺自身も救われる思いがするだろうと。
だけど違った。莉子ちゃんと関わることで俺自身、癒されていく思いがあった。一緒に帰ったり、花火大会の予定を作ったり、展示会に遊びに行ったり、夜空を見たり。君が一生懸命、自分自身と向き合おうとする姿は、逃げている俺にとっても自信につながった。それに、過去も何も関係なく、本当に莉子ちゃんと一緒にいたいと思った。ずっとこれからも支えていきたいと思った。
だけどまた俺が関わることで莉子ちゃんを傷つけるようなことが起きるのではないか。それが怖いんだ。
また莉子ちゃんと一緒に帰ったり、お祭りに行けるようになりたいけど、俺は今また声が出なくなってる。そんな状態で君を守れる男であるかどうかは分からない。
君を傷つけたくないから、大切に思っているから。俺はいろいろ考えた結果、君から離れる方法を取ります。
大人になったら、もっと自分が強くなれたら、過去を乗り越えて、君に会ったときに、ちゃんと自分の声で自分の気持ちを伝えられれようになれるかもしれない。俺たちがまた再会する時があれば、その時に声が出るようになっていたら、その時はまた一緒に話しながら夜道を歩こう。お祭りも行こう。
君に会えて、本当によかった。
またね。 廉より
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