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テーブルに並んだ二人分のケーキセットを写真に撮り騒ぐのを横目に、小山内は窓の外へと目を向けた。窓の外は代わり映えのしない景色が広がっている。むん、と立ち込める熱気、蜃気楼のように揺らぐ道路。彼にとって彼女たちのような変化が著しいものを見続けることはかなり労力を要する行為だった。
「久保田は大人しそうに見えて意外と辛辣。態度が人によって露骨に変わるの。こないだだってね……」
二人の会話の内容にはまるで興味がわかず、意味は両耳を通り抜け甲高い声だけが脳内にこびりつく。こびりついた声を掻き消そうとするかのように、水を一気に流し込んだ。中身のない会話はしばらく続き、次の来客を告げるベルに対して発せられた、店員の間延びした声でようやく途切れた。
「食べ終わったら廃墟へ行くわ。場所は車に乗った後で伝える」
「わかりました」
小山内は目を伏せたまま、間髪いれずに返答した。魚住はそれだけ告げると目の前のケーキを頬張り、再び小山内の存在をないもののように扱った。
「ちょっと待ってください、何で即答? まだどこに行くかもちゃんと言ってないのに……」
「いつもこんなもんよ、私のことが好きだから何でも言うことを聞くの、ね?」
ただでさえやかましい会話を聞かされて辟易としている小山内は言葉を発することすら億劫そうに目を細めた。沈黙を肯定と受け取ったのか、久保田は矢継ぎ早に質問を重ねた。
「信じられない。おふたりはどういう関係なんですか? っていうか私のほうが恵美先輩のこと好きだし、入学してからずっと一緒にいたけどあんたのことなんて知らない。あんたほんと恵美先輩のなんなの?」
敵意を剥き出しにした久保田はふたりに詰め寄った。
「んー……まず毎朝家まで迎えに来てもらうでしょ? 門まで送ってもらったら愛ちゃんは車を置きに行って分かれる。学部も学年も違うし。久保田とはキャンパスに入ってからしか会ってない。それに久保田はサークルが終わったらすぐ帰るでしょう? 私はその後、飲み会行ったりして、最後、迎えに来てもらって家まで送り届けてもらう。そんな感じ」
「……は?」
理解が追い付かない、とばかりに久保田は首を振った。
「すると何ですか、私が知らないところで二人は毎日会ってるってこと? 何ですかそれ、そんなの知らない!!」
「まぁ、あんたに言わなきゃいけないなんて義務ないし」
ヒステリックに叫ぶ久保田に対しても魚住は平静を保ったままだった。そんなことよりもケーキ残さないでね、私の奢りなんだから、と言い放つと自らのケーキにフォークを刺した。久保田はむせびながらも、無理やりケーキを口へと運んだ。
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