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【2】
アシスタント二人の緊張の糸が一気に切れる。
永野さんが言った。
「またか〜!!本当に帰って来るのかな?」
「何だかんだ、いつもギリギリ戻って来るよね・・・」
と私が答えると、
「うん、超絶ギリギリにね・・・」
と永野さんが絶望的に言った。
『先生の恋愛が土壇場なら、こっちも充分土壇場なんじゃーっ!!』と、叫びたくなる。
でも、与えられた仕事は仕上げなくてはならない。
永野さんが言った。
「もう、超最悪だよー。
3日もお風呂に入ってないとかありえる!?」
「確かに、労働基準法とか関係無い世界だよね・・・」
「お風呂入ってパックして、ちゃんと寝たい・・・」
「うん。
ちゃんとあったかいご飯と、ちゃんと野菜も食べたいよね」
とか一通り文句も言いつつ、二人とも辞めるつもりなんて無いのだけれど。
永野さんは同人誌作家で。私は少女漫画家デビューを目指している。二人とも、労働である以上に、ここにいる事が重要なんだ。
背景のやり直しを求めてられても、スクリーントーンの削り方を注意されても、それが一つ一つ勉強になって、確実に自分の技術の向上にもなっている。
同い年くらいの女の子と比べて、地味で厳しい職場なのかもしれないけど、それでも夢や目標を持っていた。
永野さんが言った。
「でもさ、この間私、親戚のおばちゃんに言われちゃったけど、『あなたは好きな事ばっかりやってて、楽でいいよね』って。
まったく、何が分かるっていうのよ・・・」
「まあ、そんなん放っといたらいいよ。
そんな、楽して遊んでるように見えるのかな・・・?
見えるのか・・・」
20歳前後。
まだまだ若い。
でも、この業界での通説かどうかは分からないけど。
25歳を過ぎたら、途端に背景パースや絵的な技術の飲み込みが悪くなるって言われている。
35歳を過ぎたら、人体デッサンやら等身のバランスを取る感覚が極端に衰えるって言われている。
本当に、色々覚えるなら、成長するなら、今しかない。
それぞれに、覚悟を持ってここにいるのだ。
・・・と言いつつ、肝心な先生は、たまにこうやって暴走して居なくなる。
締め切りは迫っているというのに・・・。
そろそろ指定された仕事が終わりつつある。
そして、タイムリミットも迫りつつある。
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