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「終わった・・・」 「嵐は去った・・・」 「皆、お疲れ様・・・」  と先生がぐったりしながら言った。 「あ、そう言えば、小山さんからドーナツ頂きましたけど食べますか?」 「そう。 余っても仕方ないし、皆で食べようか・・・」  徹夜しても、皆の胃腸は、わりとしぶとかった。  私が紅茶を入れているうちに、また先生の携帯の呼び出し音が鳴った。 「もしもし? え?ごめんて??? うん。 こっちの方こそだよ・・・。 うん、大丈夫だよ。 今から、そっち行くから・・・」  って。  アシスタント二人は『またか?』と、顔を見合わせた。  先生が言った。 「ごめん、また出て来るから。 二人はドーナツ食べてゆっくりして行って。 鍵は玄関ポストに入れておいてくれればいいから・・・」  と。  また嵐のように出て行ってしまった。  どんだけ元気なんだよ!?  とアシスタント二人は思ったのだった。 「さっき、先生、仕事に生きるって言ってたよね?」 「うん。 また相変わらずなんだろうね・・・」  と、私達二人は諦めの境地で悟ったのだった。    永野さんが、 「これからまた他のバイトとか、同人誌の締め切りがあるから、帰ってお風呂に入って、ゆっくり寝なきゃなー」  と言うので、 「私も明日バイト入ってるし、投稿原稿も描かなきゃだから、同じくだわー」  と答えた。 「ああ、そう言えば、中島さんの差し入れのアップルパイ、冷蔵庫に忘れてた・・・。」 「せっかくだから、カットして持ち帰る?」 「だねー・・・」  それから、お皿とカップを片付けて、二人はそれぞれの日常に戻って行く。  友達じゃないけれど、ちょっとした運命共同体だと思っている。    先生も、恋愛暴走特急のように見えても、何だかんだ締め切りに間に合わせているし、もしかすると仕事も恋愛も全力なだけなのかもしれない・・・。  他の誰かからは、遊んでいるように見えようとも、  私達は、命をかけて原稿を仕上げて、精一杯の毎日を過ごしているんだ。  ・・・本当に、死なない程度にだけどね。
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