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「真哉、崎谷くんと何話してたの?
そんなに楽しかった?」
母、真弓が今日4度目の駅までの道で不思議そうに聞いてくる。真哉は力強く頷きながら、一方話の内容はあまり教えたくないな、と思ってしまった。わかってくれる崎谷と出会えたからには、あまり共感してくれない母と善爾に関する話をしたくない。
「楽しかったから、ひみつ」
「ええ? まあ、いいけど。
善爾はともかく崎谷くんに
あんまり面倒かけないようにね。
……上司の親戚の子ども、ってだけなんだから」
母によると崎谷は善爾の友達ではなく部下、一緒の会社で働いている『だけ』だそうだ。友達ではない、ということを妙に強調するような言い回しがひっかかる。
「遊びに行くときはちゃんと宿題とかやってからよ?
言われた通り事前に連絡して……」
「だいじょうぶ。
僕も友達にしてほしいから、いい子にします」
やっとまた会えるようになった善爾とも、幸運な偶然で出会えた崎谷とも、できればもっと仲良くなりたい。一番大きなわがままを通せるなら、面倒をかけない、聞き分けのいい『いい子』でいることは何の苦もないことだ。
子どもなら許されることを得る為に、考えなしに子どもでいる訳にはいかない。真哉は決意し、腹を括る。
好きだと思える人に、少しでも好きになってもらえるように。自分がどうしたいか、どうなりたいか。それだけだ。
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