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「ごめんなさい、あんな奴に勝手なこと言わせて、
黙らすことも出来なくて」
地下の駐車場に集めてきた段ボールを下ろし終えたところで、俯いた崎谷くんが沈黙を破った。気に病んでしまったのか、声に力がない。
「謝るならおれのほうだけど……
改めて崎谷くんが来てくれてよかった、って思ったよ」
差別と偏見に基づいた不当な配属。たぶんこの先待遇も改善せず、評価も公平なものには成り得ないだろう。だけど、正しくそうしたものを既に手にした斉藤君があの様子で、それを見た崎谷くんが普段とは真逆の冷え切った表情になるのなら。
おれは、一緒にいられる間は謝るよりお礼を、いてくれて嬉しい、と言い続けよう。
「ありがとう。今日もおかげでだいぶ早く終わったしね」
「っ……! 俺、結局ほとんど運んでないです……。
役に、立ててない……」
俯いていた顔を勢いよく上げたと思えば、心細いような目でそんなことを言う。
有能で、カッコよくて、美しい。次々に新しい一面を見せる崎谷くんを、何故だかたまらなくかわいい、と、滲み出すような衝動で胸がふさがる。
昨日、久々に顔を見た甥と重なるのか。それとも――考えがまとまらないまま、手を延ばしそっと頭を撫でる。さらさらした髪を乱さないよう、些かも乱暴にならないよう。だんだん赤く染まってゆく崎谷くんの顔は、目に入っていながら見えていなかった。
「宮代、さんっ!」
「あ、ああ……嫌だった……?」
「嫌じゃない、喜んじゃうから困るんですよ!
あんまり働いてないのに、ご褒美が過ぎる」
「? 時間が大丈夫なら、良かったら夕飯を食べて帰ろう。
今日は、おれは飲まないからね。
崎谷くんの好きなところで、好きなものを食べて」
「もちろん、ぜひご一緒したいです!
けど、宮代さん飲まないんですか?」
酔っ払った宮代さん、かわいくて好きなんですけどね。
かわいい、なんて言葉はそう言って笑う崎谷くんにこそ使われるべきだ、と改めて思いながら、調子が戻ってきた様子に少し安心して「休日出勤したからって肝臓はちゃんと休ませなきゃね」とあまり冴えない答え方をした。
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