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だんだん育ってきて分かったことだが、ふつう少しぐらい年齢が近いからって叔父は甥の面倒を善爾ほど引き受けはしない。
実際伯父、母の兄の正義はたぶん真哉の顔も正確に覚えてはいないだろう。一年に一度も会わない正義と違い、善爾とは多い時で週に二、三日のペースで会っていた。父母共に不在――帰ってくる方がめずらしい父に加えて母の仕事の都合もつかないような時、家で共に過ごす真哉の保護者は善爾だったからだ。
「善爾くん、めんどくさくないの?」
預けられていた夜、聞いたことがある。めんどくさい、と、うなずかれて放り出されても困ってしまうのだが、真哉の都合はともかく善爾はあまりにも便利に使われてはいないか。嫌だと思っているなら、正直に言ってほしかった。真哉はもう目を離すと危ないほどの子どもではなかったし、ひとりで時間を過ごすのがそれほど難しいこととは思えない。善爾の負担になりたくはなかった。
「んん? めんどくさい、って……真哉のことが?」
「僕の、めんどう見るのとか」
「いやー、結局あんまり面倒は見てないからなあ……。
おれはね、役に立てるとか――必要とされるとか。
そういう意味で、真哉といられるのは嬉しいよ」
そういう意味、はよく分からなかったが、とにかく善爾は真哉をすごく嫌がっている訳ではなさそうだ。それなら少し踏み込んだこと、わがままを言ってみても怒られないだろうか。
「おじいちゃんがね、善爾くんと一緒にいるより
うちに来いって言うんだ」
「おじいちゃん? ……あ~……」
「善爾くんだってお父さんと同じで、
子どものめんどうなんか見れるわけないって。
うちにくればもっとちゃんと……」
「さっきも言ったけど」
珍しく善爾が言葉を遮り幾分強い調子で話しだす。何かしていたことを止め、真哉の隣に座り、気付かないうちに固く握っていた拳をそっと開かせてからその大きな手で包む。
「おむつ換えてたころならともかく、
今は真哉に見なきゃいけない面倒なんかないよ。
お前が行きたいなら止めないけど――
いや、やっぱり、おれは反対だ」
父さんよりはおれのほうがましじゃない?
強く出たと思ったのに、すぐに元通りになってしまう。何故こんなに自信がないのか、祖父は当然のこと父ですら、善爾と過ごした時間ほど真哉に寄り添ってくれたことなどないのに。
「善爾くんがめんどくさくないなら、
善爾くんがいい」
言いながら隣の大きな身体に抱きついた。『まし』なんかじゃなく、善爾がいいのだ。自分があまり子どもらしくない子ども、周りの友達のように無邪気にふるまえない自覚がある真哉にはかなり勇気が必要な行動を、善爾はごくやわらかく抱き返すことで受け入れてくれる。
「宮代の関係者でおれがいいなんて言ってくれるの
真哉ぐらいだからなあ……。
おじいちゃんがいい、って言われたら
だいぶへこんでたよ」
「お父さんより、善爾くんがいい」
「それは、ちょっとお義兄さんに悪いなあ」
笑いながら言う善爾は知らないだろうが、父はたぶん真哉に興味がない。好きとか嫌いではなく、無関心なのだ。真哉自身はほとんどもう理解し、諦めていたがそれを口に出して伝えられるほど割り切れてはいない。善爾にわかってもらえるような言葉にするのも難しかった。
「……夕ご飯めんどくさい魚じゃなかったら
ずっと善爾くんがいい」
「こら真哉。
そこはめんどくささを楽しむんだ。
というより材料を買ってる姉さんに言って」
「お母さんに言ったら怒られるから」
「そりゃそうだろうねえ……。
まあ、だいたいの骨はとっとくから」
大きくなれないぞ、って言ってもおれほどにはなりたくないよなあ、とさびしげに笑う善爾には、わがままを言えるような人がいるだろうか。
自分がそうなるにはまだだいぶかかってしまう、それまでに誰か、善爾を、善爾だけを見てくれる人が出来るといいのに。真哉はまだ上手く言えない気持ちを込めて、もう一度強く抱きついた。
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