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「えっ、そうなの?
それじゃあこないだはごめんね、段ボール運ばせちゃって」
「いや、結局俺、あの時バレないくらいしか
働いてなかったってことですよね……申し訳ないです」
先日の廃棄書類回収に言及した宮代さんは、話しながらいともたやすく一人で複合機を動かしてくれた。
「こういうの、すぐになんとかしないといけない時
おれが動けてなくてね……ほんと情けないよ」
「女二人で動かしてた、って。
それに比べてもお前やべぇなって言われました……」
「あはは、やばい、か!
それは、ほめてないほうのやつだね」
最近の宮代さんは、少しずつ声を上げて笑うことが増えてきたんじゃないかと思う。垂れ気味の目がやわらかく細められ大きく口を開けて笑うその顔は、最初の頃よく見ていた悲しそうな笑顔より安心して見ていられる気がして好きだ。言ってしまえば宮代さんならどんな顔でも嬉しい訳だけど、喜怒哀楽の中だったら喜と楽が多めであってほしい。
「トナーの交換だっけ?」
「あっ、この先は俺やります!
あとは、あの、戻すのを、また……」
「そんなにおっかなびっくり言わなくても!
もちろんそのつもりだよ」
じゃあおれはごみ出してくるね。
からかうように笑い、軽く手を挙げて背を向ける宮代さんが部屋を出ていったところで顔面の熱が爆発する。
尊いって、こういう時使う言葉だろうな……。
あくまでも行きがかり上、と自分に言い訳しながら、俺は宮代さんに恋情を告白してしまっている。気持ち悪い思いをさせる可能性と、虐げられている社内での絶対的な味方の必要性を天秤にかけ、自分の欲を上乗せして折々に好意を表明しているのも、軽い調子で繰り返せば冗談めいてくるかという意図。
どうにかなりたいとか、なれるなんて思ってる訳じゃない。
節度を保ってたまたま平日毎日会える推しにガチ恋を続けているというだけの話だ。少しだけ、薄着になってきた昨今露わになった厚い胸板、袖をまくった腕をかたちづくる筋肉、そして時たま他意無く触れてくれる大きな手を、妄想の糧――有り体に言えばオカズにさせて頂いておりますが、それを気取らせるような下手は打っていない、はず。
無償の愛を捧げる、という自慰行為が、どうでもいい男に抱かれるより気持ちがいい。それだけのことだと思っている。
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