先生、お付き合いをしましょう!

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「小柳さん、我慢なんてしなくても大丈夫。病気に大きいも小さいもないから。比べることが間違ってるんだよ。誰かに酷いことを言われたのなら、その人はもしかしたら心の病気なのかもしれない」 「心の……病気?」 「目に見えない病気はこの世にたくさんあるんだよ。人の痛みがわからない人もいるし、善悪の区別がつかない人もいる。その人達が必ずしも心の病気だとは限らないけど、中にはそんなふうに病気を抱えていて、本人すら気付いていないこともある」 「心の病気って鬱とかですか?」 「そうだね。1番有名かな。他にも精神の病気はたくさんあるけど、小柳さんだってそういう人達には気付かないかもしれない」 「そうですね……」 「でも、その人達も小柳さんみたいに自分の病気のことで苦しんでる」 「はい……」 「健康な人にだって悩みがないわけじゃないし、辛くならないわけじゃない」 「……はい」 「まあ、だからなんだって話なんだけど、小柳さんは普通だよってことね」 「え?」  名前の通り、1番最初に顔を出した朝日のように輝く笑顔を向けた旭に夕映は戸惑った。ゆらゆらと瞳を動かして、ようやく定めた視点は黒の聴診器だった。  今思えば、この時から夕映は旭に惹かれていた。  大人は皆、自分が正しいと思っていて子供の言うことなどバカにして話など聞かない。それでいて都合の悪いことばかり話を伏せて、別の例を用いて正当化する。  夕映はそんなふうに考えていたが、旭は違った。夕映のことを間違っていないと励ましてくれたが、決して綺麗事だけで片付けようとはしなかった。子供扱いされているとわかっていても、夕映の話には真摯に向き合ってくれた。  他の大人とは違う部分に、その人間性に心惹かれたのだ。
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