王道襲来

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それまでただの町医者息子だったぼくが急にドデカサロンの主宰者だったことを知った学園のお坊ちゃま達が即会員になったり、依頼を持ってきたりでなかなか有名人になったのもわりと最近。というか、泉さんがバラしたせいで知れたのだ。 「はあ、y-raがデカくなる前はお前もまだ可愛げがあったのに、今じゃ職業病みたいにいつでも黒いことばかり考えるようになっちまった」 「悪いことみたいに言わないでよ。y-raがこんなことになったのも、ってゆうかしたのは泉さんでしょ。泉さんだって、最初はy-raのこと良いように使う気満々だったの知ってるんだよ」 「そこはお相子、だろ。ゆらだってあのアミューズメントパークに俺がいくら投資したか、一番よく知ってんだろう?」 「だから今泉さんの悪巧みにy-ra総員で付き合ってあげてんじゃん。」 「悪巧みじゃねえ。立派な稼ぎ話だ。そうだ、先月頼んどいた新規HPのデザイン草案は纏まってるか?そろそろ時期だろ」 「もちろん。今回はちゃんとぼくが描いたんだよ」 「なら安心だな。週末の会議に持ってくの忘れんなよ」 y-raというのがぼくのサロンの名前。月額で会員料をとりつつ、各企業から受けた依頼をそのまま掲示板に貼って、我こそはと名乗り出てきた会員が仕事をし、報酬の1.7割をy-raに入れて貰う。ほとんどは個人でぼくにダイレクトメッセージを送って貰うカタチで連絡をとっているが、会員が増えてからは企画部、デザイン部、営業部などと各分野ごとに代表を立ててそこで連携をとってもらったりもしている。 ぼくは主宰者らしく、依頼主との直接的なやり取りだったり、各部代表との連合を開いたり、内部限定でコンサルティングみたいなことをしてみたり、みたいなかんじで手探りに自由にさせて貰っている。 まあ、ここまでy-raがデカくなったのはほとんど泉さんのおかげ。昨年の始め頃、まだなんの実績もないy-raに目を付けて接触して来た泉さんとあれこれ模索しながらここまで動かしてきたのだ。 泉さんとしてはそこそこに成長させたy-raを買収してそのまま高峯のものにしようとしていたみたいだが、ぼくが大反発。独自に立ち上げたプロジェクトのアミューズメントパークがかなりの大成功を収めたこともあり、今の関係性に落ち着いている。 ……それもあくまで公的な、だけど。 「…ところで泉さん、今日はどっち?」 「俺の部屋。この前頼んでた食器類、昨日届いてたぞ。欲しいっつったのお前なんだから、自分で空けろ」 「お、やっと届いたんだ。じゃあ今日はスーパー寄って帰ろ?そうだな、今日はちょっと寒いから温かいものがいいね」 「メニューはお前に任せる。無駄遣いすんなよ」 泉さんの部屋に届いたという荷物、ぼくが某あまぞんで購入した新しい調理器具と食器だ。 ちなみに普段のぼくの私生活における出費は全て泉さんのサイフから出ている。最初はやっぱり罪悪感があって遠慮していたのだが、「これがお前の生活を見るのに一番効率的だからだ」と鳥肌の立つことを言われたので、それ以降は甘んじて受け入れている。学費は特待生制度で免除されているし、なによりぼくだってかなり稼いでるのだから、自分のお金で生活したいのは山々なのだが。 「うーん、温かいものといえば、シチューとか?でも確か冬にいっぱい食べたよね。やっぱポトフとかにする?」 「俺はなんでもいい。ゆらの好きにしろ」 「泉さん、夕飯のリクエスト聞かれてなんでもいいは駄目だよ。嫌われる夫の典型的セリフ」 「……その2択なら、ポトフだな」 「ふふ、りょーかい。早く行こ、今行けばピーク前ですいてるよ」 未だソファーの上でぼくを抱きしめたまま動かない泉さんの腕をぽんぽん、と軽く叩き動きたいアピールをする。惜しむようにうなじにキスを落とされてからようやっと解放され、満足に息を吸う。中身のなくなったティーカップとクロワッサンの包みを持ち、泉さんがキッチンに向かって行った。 普段の態度とか、もの言いだけ見てればただの亭主関白なのだが、こういうところでスパダリの1面も見せるのだからズルい。泉さんがティーカップを洗うのをしばし見つめていれば、早く支度しろ、と叱責の声が。 先程、会計さんと交わした応酬を思い出し、へへっと笑ってから怪訝な顔をした泉さんから逃げるようにリビングへ戻った。 *
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