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☆☆☆
鮮やかなピンク色の躑躅の前でスマホを構えていたら。
正面からの二人組と目が合って、声を掛け合った。
「お」
「ああ」
「あ、恵那やん。なん? おまえら約束でもしとったん?」
関西弁で恵那に話しかけてきたのは、九条響。
そしてその隣、目が合って声を掛け合ったのは、恵那の双子の弟である土岐だ。
「しねーわ。たまたま、たまたま」
「てか自分、えらい可愛いコ連れてるやん?」
中学時代からの腐れ縁って奴で。
響は土岐の友人であると同時に恵那の友人でもあり。
恵那の陰に隠れるように小さくなった涼に。
「んな隠れんくてもいいやん。俺、恵那のトモダチー」
へらへらと笑いながら声を掛ける。
「あー、涼。怖いかもしれないけど、基本的に悪さはしないからそんなに怯えなさんな」
苦笑しながら涼の腰に触れて少し押し出した。
「そうそう、取って食やせんよ。こないだからC組にえらい可愛い子がおるって聞いとったけど、なんや恵那、おまえ手え早いなあ」
「そりゃもう、こんな可愛いの、一人にさせとくわけにはいかないし」
言いながら恵那は涼の肩を抱いた。
「これ、俺のだから」
が、さすがに涼も「違う!」と恵那の腕を叩いて逃げ出した。
「別に僕、えなのモノじゃないし。可愛い可愛い言うけど、えなのが絶対可愛いもん」
ふくれっ面で恵那に人差し指を突き付けた。
そう、二人きりでいる時にどれだけ恵那が“可愛い”と思っていても口に出さないのは、それを言うと涼が膨れるからで。
自分が高校生のわりに小さいことや、童顔であることがコンプレックスでしかない涼にとって、「可愛い」は禁句らしく。
最初の頃当たり前のように“可愛い”と呟いていたら、拗ねまくって不貞腐れたから。
その姿さえも可愛くて仕方なかったけれど、人の嫌がることはしない、という常識は持ち合わせている恵那だから、できるだけ心の中だけで叫ぶことにしている。
「はいはい、ごめんごめん」
くふくふ笑いながら謝るけれど、
「人のこと可愛いなんて言う前に、自分のが美人さんなことちゃんと自覚しろよな」
絶対に謝ってなんてないとわかるから、涼は膨れたまま恵那を睨む。
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