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☆☆☆
部活が終わると腹が減る。
そんなの運動部だけではないから、恵那と涼は学校帰りにファストフード店に寄り道していた。
「ホルン、どーよ?」
ポテトとコーラという最強の組み合わせを頬張りながら恵那が問う。
「先輩はね、めっちゃ優しい。三年の雪野先輩と真中先輩でしょ、で二年の新田先輩と大橋先輩」
涼が出す名前は、でも恵那にはまだわからない。
木管セクションの先輩は殆ど覚えたが、ホルンを含む金管セクションとはまだあまり接触がない。
「僕、中学ではずっとガイヤー使ってて、でもこの学校ガイヤーは二本しかないんだよね。雪野先輩と新田先輩が使ってるから空いてなかったんだけど、雪野先輩が譲ってくれたの。自分はどっちでも気にならないからって」
ちょお優しくない? とシェイクのストローをグサグサやりながら言う。
まあ、涼に対してならほぼ誰でも同じ対応してくれそうだと、恵那は思うけれど。
というか何のことやらさっぱりわからん。
金管楽器には触れてこなかった恵那なので、専門用語を出されると曖昧に笑うしかない。
「一年は? 仲良くなった?」
「……ビミョー……」
こちらの問には、表情が曇る。
「何? 変なヤツ、いるのか?」
「変なヤツはいないよ。僕が話しかけらんないだけ」
「あー、人見知りなー」
「僕もいちお、努力はしてるよ? どこ中って、訊いてみたし」
「お、いいじゃん」
「でも、目、合わせてくんない」
シェイクをずずっと啜って目を伏せる。
睫毛なげーな。なんて、恵那はそっちに感心してしまう。
大きな丸い目を縁取るバサバサの睫毛が、涼の可愛さに一役買っているのは確かだろう。
「なんでかなあ? えな、いつも初対面の人にどーやって話しかけてる?」
「知らん。そんなん、考えたことねーし」
「えー。だって、えな誰とでも話するじゃん」
「うん、だから何も考えてねー。涼にはなんつったっけ?」
入学して、教室入って、隣の席だった。
きっかけなんてただそれだけ。
そして恵那は左隣りではなく、右隣りの涼に声をかけた。
特に何のこだわりもなく「なんか、書類めっちゃ多くね?」と。
「あー、だっけ? 覚えてねーわそんなんいちいち」
「だよね、えなのことだから。てことは、思いついたこと、口に出してるだけ?」
「たぶん」
基本的に、単純なんで。
思い出したけど、その後目が合った瞬間思わず「うわ、可愛い」と口にして涼に嫌な顔をされたんだった。
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