左右、あるいは正面

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 ナスダを無視してムネオは僕に向かって言う。 「いいか、俺は右利きだ。お前も右利きだよな? だったら、右にあったほうが取りやすいだろ、普通に考えて」  僕が反論しようとすると、その前にまたナスダが口を出す。 「僕は左利きなんだけど」 「いやもうマイノリティーは黙れ」  ムネオがそう一喝すると、ナスダは反論する。 「多様性というものが……」 「いやもうね、可哀想だけどね、黙れ」  僕もナスダを切り捨てた。  少数派を駆逐することが、民主主義に生きる現代人の使命なのだと思う。  何かを言いたげにしているナスダを尻目に、僕はムネオに反論する。 「左利きの奴のことなんてどうでもいいけど、普通に考えれば右利きだからこそ、左向きに置くだろ。普通に考えてみろ」 「その理屈がわからん。右向きに置かないと不便だろ、右利きなんだから。普通に考えろよ」  ムネオも反論してくる。  しかし、どう考えても左向きの方が利便性があるのは間違いないのだ。 「右向きに置くと、奥から攻めなきゃならなくなるだろ、遠いんだよ」 「いや右から先に手を出すんだから、手前に右があった方が遥かにいいだろ」 「だからその右が左にあった方が、先に右、その後に左となるんだから自然じゃないか」  言って自分でもよくわからなくなってきたが、たぶん合っている。
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